July 01, 2017

狼は天使の匂い

 大昔の思い出。
その昔TBSでは「月曜ロードショー」という番組が月曜夜9時から放送されていて、これが日テレなら「水曜ロードショー」(のちに金曜日に引っ越した)自分の生まれ育った盛岡ではリアルタイムに見られなかったフジテレビなら土曜夜の「ゴールデン洋画劇場」、同様にテレ朝が「日曜洋画劇場」だったけどこちらはすごく遅れて土曜の夜遅くにローカル局で放送してたので、リアルタイムと言えば言えないこともない。
謎の円盤UFO」が土曜の夜8時に放映されていた当時その後の夜9時にはなぜか邦画(しかも東宝の特撮映画の比率が高い。「海底軍艦」「空の大怪獣ラドン」「サンダ対ガイラ」を見た記憶がある)ばかりかけていた映画番組枠があったけど、あれは何だったのだろう。
調べるとどうも「土曜映画招待席」だったみたいだけど、それだと土曜8時の枠(雨傘番組)で「UFO」の後の後の番組なんだよな。オイラの記憶が違っているということだろうか。…と思ったら、どうもオイラの記憶違いだったみたい。この「土曜映画招待席」で間違いないらしい。これについてはまた改めて触れたい。

東京にいたころはテレ東も見られたわけで夜は「木曜洋画劇場」があり昼間だと「2時のロードショー」(のちの「午後のロードショー」)なんてのがあって、キー局ごとに独自の映画枠があった。もっとも東京にいたころはバブル景気の頃で、深夜の映画枠がものすごく充実してたなぁ。今はなきシネヴィヴァン六本木で単館上映だった「天使」なんて前衛的なのをテレビでもやってたような時代。
「蜘蛛女のキス」もなんでか深夜の放送枠だった。しかも吹き替えなしの字幕。
シネヴィヴァン六本木、懐かしいな。「コヤニスカッティ」(コヤニスカッツィ、と今は正しい発音表記になってる)も見に行ったなぁ。
キー局それぞれに映画解説者がいて、月曜は荻昌弘、水曜だと水野晴郎、土曜は高島忠夫、日曜はもう、淀川長治。木曜洋画劇場だとあの当時は木村奈保子だった。懐かしい。
生家にいたころはもっぱら月曜ロードショーを見ていたわけで、それで見た映画はなぜか記憶が比較的鮮明だったりする。この「狼は天使の匂い」もそんな作品で、兄姉どもが放映の時に真面目に見ててそれに付き合わされる形で小生も見ていた。レーザーディスクのソフトは以前出ていたけど長いことDVDにはならず、発売になるとわかったときにしっかり予約して買った。

見てみたら、放映の時にはえらく編集して端折ってあったのだということをものすごく理解できました。

狼は天使の匂い [LA COURSE DU LIÈVRE À TRAVERS LES CHAMPS](1972)
監督:ルネ・クレマン
音楽:フランシス・レイ
出演:ロバート・ライアン、ジャン=ルイ・トランティニアン

Pdvd_016

パリで元本屋の建物に引っ越し作業中の母子。母が「ティトゥ、遊んでおいで」と男の子をその辺にたむろってる子供たち(主にロマ=ジプシー)のところにビー玉の入った網になっている袋を持たせて行かせるが、当然男の子はすぐに仲間に入れるわけじゃない。そのビー玉の入った袋をさしだすんだけど、ロマの年長の男の子がその袋をナイフで切り裂くと階段をビー玉が散らばりながら、跳ねながら落ちていく印象的なカットにルイス・キャロルの言葉が重なる。
Pdvd_012


愛しいものよ、僕たちは、もう寝る時間なのに寝るのをいやがってむずかる年老いた子供にすぎない

舞台は変わってカナダのモントリオール近郊。小さな駅に降り立ったアントワーヌ(ジャン=ルイ・トランティニアン)を待ち伏せていたロマの男たちが取り囲む。彼は飛行機事故でロマの子供を死なせてしまい、それを恨む男たちに追われていた。すきを見て逃げるアントワーヌはヒッチハイクなどしてなんとかモントリオールまでたどり着くが、それでもロマの男たちの追跡は止まない。
逃げ込んだもとは万博のパビリオンでアントワーヌは殺人に出くわす。撃たれた男、レンナーを介抱しに駆け寄ると、男はアントワーヌにいまわのきわに最期の言葉をかける。
チャーリーは抜け目ないが、トボガンは死んだ。…わかるか、自殺したんだ!
男はポケットにあった大金をアントワーヌにやり、息絶える。その場から逃げようとする彼を二人の男が呼び止め銃を向ける。男たちは彼に手錠をかけ連れ去るが彼らが警官ではないと判ったアントワーヌは乗せられていた車から一人を突き落とし、運転するもう一人の首を絞め抵抗するけど失敗。落された男とともに船に乗せられ、もとはレストランか何かだった小さな島の家にいるチャーリー(ロバート・ライアン)のもとへ連れて行かれる。出迎えたのはボクサー崩れのマットーネ(アルド・レイ)とシュガーという女(レア・マッサリ)。アントワーヌを連れてきた男はリッツィオ(ジャン・ガヴァン)。車から落とされて重傷なのはポール(ダニエル・ブレトン)というのがチャーリー一味。彼らはこの家で何かの目的をもって共同生活を送っているらしい。殺されたレンナーも彼らの仲間だった。
アントワーヌは自分が追われていた理由を、刑事を殺して追われていたとウソの話をして彼らを信じさせるけど、チャーリーは10ドルだけ渡してこの島から出ていくよう諭す。手錠を外され一度は外に出るんだけどやっぱロマの男たちが待ち伏せていて、彼は結局チャーリーのもとに戻る。チャーリーは金のありかを聞き出すため、彼をとどめておくことに。カードで遊ぶのに誘われたアントワーヌ、自分の腕時計をリッツィオに売るんだがリッツィオはこれを気に入ったみたいで右腕にはめたんで彼は両腕に時計してる変な人になった。
チャーリーは彼をフロッギーと名付け、「きれいな景色だろ。明朝までに金を返さなかったらあそこに埋めてやるよ」
と脅す。でも居ついた彼はチャーリーたちとちょこっと親しくなる。
翌朝、チャーリーたちは彼をどうやって殺すか朝食の場で話し合っているともう一人この家に住むペッパー(ティサ・ファロー)が騒ぎ出す。ポールの妹の彼女、かなり精神的に不安定ならしくなにかあるとすぐ銃をぶっ放すんだが彼女が言うには「ポールが死んだ」
神父を呼んでポールのための祈りを要求して立てこもるペッパーをアントワーヌは説得するのに成功。チャーリーが埋葬されるポールに祈りの言葉をささげてこの場はなんとか一件落着。
皆が留守にしている間にアントワーヌは納屋になぜか大きな消防車(はしご車)があるのを発見。見張りに残ったシュガーからチャーリーとの関係とかを語られる。
一方出かけていたマットーネはホントの目的のついでにマーチングバンドのリーダーの女につきまとい、彼女の恋人をぶちのめしてしまう。今でいうところのストーカー行為ですな。戻ってきたチャーリーにアントワーヌは金のありかを教えるから仲間にしろと告げる。肝心の金はポールの上着に隠しておいたのをペッパーが見つけていたが、チャーリーはアントワーヌと彼のパリの部屋の鍵をかけて賭けをして、結局は彼を仲間にする。
このあたりから主人公はトニーという名前が通り名になってくるんだけど、まぁそんなことは些細なことだ。
シュガーはトニーになんか惚れてしまったみたい。今回の仕事を終えた後のそれぞれの今後を語るふたり。トニーはオーストラリアに行くのが夢らしい。ペッパーの本当の名前がミルナということもこの辺で判明。
武器屋のマストラゴス(ドン・アレス)がチャーリーのもとに仕事で使う銃器類を届けに来た。彼は「レンナーは死んだしポールもいない、なんだか不安だな」なんて言うんだけど、リッツィオは彼を殺してしまう。リッツィオの提案でチャーリー以下全員でポラロイドカメラで記念撮影をすると、なんでか真ん中にあのマーチングバンドのリーダーがはさまって写っていた。前日マットーネが使って二重露光しちまったからなんだけど、そこに写っていた女、イゾラ(ナディーヌ・ナボコフ)は同じころ刑事に尋問されていた。マットーネが彼女のボーイフレンドを殴り倒した一件のためだけど、彼女は犯人の二人の男の特徴として「ひとり、両腕に腕時計してたの」と証言していた。マットーネ頭悪すぎるぞ。
チャーリーたちの計画が実行されることになり、チャーリー以下の男性陣は車でモントリオールへ。シュガーだけが島の家に残っていたらロマの男たちがそこに現れて胡散臭ーく水をもらっていくんだけど、そこで何か起こるのかと思ったら、何も起こらなかった。チャーリーは警視庁の18階から何かを盗み出すらしい。何を?と問うトニーに
「値段はつけられない。…俺たちには100万ドルだ」と答えるチャーリー。トニーは子どもの頃、パリであの日一緒に遊んだ少年の言っていたことを思い出す。
「アメリカで摩天楼を襲撃して街中のデカどもと戦うんだ…」
決行は今夜。男性陣はいったん船で島に戻る。その途中、ペッパーに二人でニューオーリンズへ行こうと誘われるトニーは何となくうなずく。というか、その気になってるのか?
チャーリーから、盗むものは女だとトニーは教えられる。マッカーシーというギャングの裁判の証人として警視庁の18階の特別病棟に入院している18歳の娘なのだが、13歳のころに精神に異常をきたしてしまい語る内容はわからない。そんなんでも証人になるのか?ともかくマッカーシーにとっては100万ドルの価値がある女だとのこと。
しかしレンナーが「彼女は死んだ」と言っていた。チャーリーは身代わりを仕立ててマッカーシーから100万ドルせしめるつもりなのだ。ロマの連中から話を聞いたシュガーは、トニーに一緒に海外に逃げよう、とトニーに懇願するんだがこれにもトニーは何となくうなずく。どうすんだトニー。
いよいよ計画実行。チャーリーさんの御一行はまず劇場にピアノのコンサートを聴きに行くわけだがここで誤算が発生。彼らのいるボックスのすぐそばにあのイゾラがいて、マットーネの姿を見つけちまったのでホールの保安係に警察に連絡するように通報。そんなことは知らないままチャーリーたちは劇場の奈落へ移動。残った女性陣でトニーの取り合い。ペッパーが「彼は私と行くの」とシュガーに行ったもんだからシュガーは落胆。そのまま手伝いのためにペッパーが席を立ってシュガー一人になったところに警察が来て、シュガーは連れて行かれてしまう。
チャーリーたちは劇場の地下の奈落を抜けて駐車場に行き、地下の壁を車でぶち破って隣の立体駐車場のビルに行き、その18階に停めてある例の消防車のはしごを使ってさらに隣の警視庁ビルの18階に直接のりこみ女をさらってくるという算段。この計画、ちょっと乱暴だと思う。
やはりトボガンは死んでいたので、仕方なしに彼女の服と愛用品だった変なぬいぐるみの人形を持っていこうとしたところ警備の人間の交代時間になってしまい、銃撃戦になってしまう。リッツィオはここで警察に捕まり、3人だけペッパーは回収することになった。で、ペッパーをトボガンに仕立て上げることにする。捕まったリッツィオはアジトに警察を案内するふりをしてウソの場所に連れて行き、そこでささやかに抵抗した結果射殺されてしまう。
あくる日、トボガンと現金との交換の場所に行ったチャーリーたちは当然のごとく相手と銃撃戦。全員倒して金を手に入れることに成功するが、マットーネは敵の銃弾を受け死んでしまうのだった。金を持っていこうとしたチャーリーだったが、敵でひとり生き残りの奴がいて彼の銃弾をくらう。トニーがそいつを撃ち倒し、瀕死のチャーリーともども車に乗って逃亡。死んだ仲間の面通しのために連れてこられたシュガーはチャーリーが重傷を負っていることを知り、残った仲間がどこに行ったかを警察に教える。
島の家に戻った3人、チャーリーはほとんど動けないけど酒を飲んでいる。ペッパーが医者を呼ぼうとしたけど電話が通じない。それを知ったチャーリーは自分たちが追いつめられていることを知り、「お前の本名は」とトニーに問います。
「アントワーヌ・カルド」
「俺はチャーリー・エリス」
外の様子を見に行ったペッパーが戻ってきて「誰か河から来る」と告げる。チャーリーは彼らを迎え撃つために銃を取り出そうとするするけど、もう体がいうことを聞かない状態。無理やりものにした金の半分をトニーとペッパーに渡し、「出ていけ!」と追い出してしまう。なぜか銃のほかに酒とポラロイドカメラ、そしてビー玉の入った袋を持って二階に這うようにして上がっていくんだけど、ビー玉がこぼれてしまう。
車で外に出たトニーとペッパーだったけどロマの男の待ち伏せにあい、トニーは深手を負うことに。トニーはそのことを隠してペッパーを先に行かせる。
「彼を放っておけない。約束する。明日必ず行くから、航空券をくれ、ミルナ」
よたよたとトニーはチャーリーのもとに戻る。彼が見たのは床に転がるライフルと多数のビー玉。
そのビー玉を集めてトニーは上階のチャーリーのもとに行く。ここでまたチャーリーは自分の爺さんの思い出話をちょいと語る。
「じいさんは野ウサギを飼い慣らしてた。耳の大きい本当の野ウサギさ。そいつが逃げたんで、漁師の出番になった。ところが、逃げ回るんだ。3日間も。漁師たちは3日間荒野を駆けまわった。ウサギは罠を見つけるとその上を飛び越えて走る。もっと速く」
「結局、捕まったのかい?」
「いや。じいさんが知恵をつけすぎた」なんて原題「うさぎは野を駈ける」にまつわるお話がここで語られる。
そして、チャーリーが「なぜ戻った」とトニーに問うと
ビー玉のためさ
この映画で一番の決め台詞が出てくるんだな。
「勝負するか、お客も来るしな。店を開こう」
チャーリーの言葉で、ビー玉をかけた勝負が始まるのであった。表の看板を的にして
「あれに当てたら2個だ」とビー玉をかけた勝負。だけど銃声ひびかせてこんなことやってると当然警察との銃撃戦になるわけで、そのさなかにトニーはまた少年時代のあの日を思い出す。パリで年長の少年と別れたときのことを。

とにかく、今回ちゃんと見て思ったのは尺の長さ。ランタイムが2時間15分ある。なので、正直テンポがゆったりしてる作品だということ。月曜ロードショーでやったということは、だいたい1時間30分くらいに尺を短くしていたはずだから、かなり大ナタふるって編集していたことになる。でもそのおかげでかえってタイトになっていい感じだったような気がする。えらいぞTBS。その印象があるもんだからかなりのんびりした感じの流れの作品に感じられた。で、考えたのは、どの部分を詰めるともっとテンポのいい作品になるんだろう?というあまり作品愛の感じられないことでした。雰囲気はものすごいいい。フランシス・レイのテーマ曲はとてもいい。でも、ここまで長い尺はいらないと思う。全体的にカットのおしりが長めに引っ張ってる傾向があるから、それを詰めるだけでもかなり尺は短くなるだろなぁ。
フィルムノワールとして見た場合はちょっと理屈っぽすぎる。でも、このセバスチャン・ジャブリゾの脚本は大人の世界とその大人が通り抜けてきた子供時代とを並列に並べて作品世界を構成しようとするもの。その重要なアイテムがルイス・キャロルであり「不思議の国のアリス」ということに、なるんだろうな。登場人物たちが死ぬ間際に少年時代を思い出す、それもとるにたらない日常的な光景を思い出すカットがはさまるのがその表れだし、この物語でチャーリーとトニーとが実は以前に会ったことがあるという描写、そしてチェシャ猫の顔。そのおかげでどえらい哲学的な雰囲気をもつ作品になってしまった。そのくせいい大人がビー玉賭けて命がけのゲームをするというエンディングがかっこよすぎる。とにかく、この空気感がすべての作品であった。ルネ・クレマンにはもともと「太陽がいっぱい」というノワール作品の傑作があるわけで、この人はこういうノワール的作品を撮りたかったのだろうなぁ。この作品の前には「パリは燃えているか」なんて超大作も手掛けてるけど、そういう大がかりなのはあまり肌に合わなかったのかもしれない。でも、この後のキャリアを考えるとこの作品の時期までが精いっぱいだったかも。

役者について言うと、ロバート・ライアンさんがこのブログでも二度目の登場。また男同士のやおいチックな交流を描く作品ってどういうことなのだろうか。ジャン=ルイ・トランティニアン演じるトニーだかフロッギーだかアントワーヌだかは、ちょっとはっきりしないキャラクターだなぁ。結局若い女を選ぶとことかでそう思ってしまう。ちょっと優柔不断なキャラクターなんで見てるとなんかすっきりしないんだな。精神的に不安定な女を選ぶとは。

自分の兄姉たちがこの作品がテレビでかかったときに喜んで見てたのはチェシャ猫とこのハードボイルドなお話のためだったはず。ここで出てくるチェシャ猫の顔はテニエルの描いたチェシャ猫の顔だった。
Pdvd_013
冒頭の引っ越しの光景にも
Pdvd_014
物語の最後にやっとわかる、チャーリーたちが暮らしていたこの建物の入り口の看板にもこのチェシャ猫がいた。
Pdvd_027

子どもと大人、という別の人種として見るのか子どもから成長して変化したのだとする流れのものとしてとらえるか、ということなのかもしれない。そのどちらを選ぶかは見ているこちら側に任されている。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

June 28, 2017

その場所に女ありて

 もともとこの感想はかれこれ3年前に手を付けておいてそのまま忘れていたもんだったので、せっかくだからと書き直してみたのだがさすがに忘れていることが多くて、改めて本編を見直してみた。

 東宝のサラリーマン映画といえば、まず間違いなく喜劇なはずなんだけど「その場所に女ありて」は、はっきり言って東宝映画らしさもないという感じの、ちょっと異色の作品であった。
もともとタイトルだけ聞いたらえらいしっとりした中身の映画を想像してたんだけど。
いきなりサラリーマン映画だったんだもん。

っていうか、もともとBSで放送するということから録画してあとから見たわけなんだがものを知らない小生は鈴木英夫という監督を当時は知らず、当初これはいつもの東宝風のものなんじゃないかと思い込んでいたので気楽に録画して見てみたのですが見たら鈴木英夫というひとの才能がものすごく感じられる、佳作だったのが驚きだった。当時の東宝という会社は懐が深かったのだな。懐の深さついでにぜひソフト化してほしい作品です。

その場所に女ありて(1962)
監督 鈴木英夫
脚本 升田商二・鈴木英夫

矢田律子(司葉子)は西銀広告社の営業担当。出社の途上でデザイナーの倉井達也(山崎努)と出くわし、今回二人で担当しているスカル目薬の原稿が本日の正午提出ってんでざっくばらんにこの件を話し合いながら出社。
オフィスでは古株タイピストの田島祐子(大塚道子)が後輩男性社員をどやしつけながらタイプ打ちの真っ最中。この会社は基本年功序列で性格のきつい女子を採用するらしい。皆からは「幹事長」と呼ばれてます。
律子の隣の席にいるのは藤井久江(原知佐子)男性社員相手に月利3%の金貸し業をやってるようで、今日は給料日なんで金利だけでもと取り立ての作戦を立てている。
彼女らの妹分としてかわいがられてるのがコマンチこと吉村ミツ子(水野久美)彼女の付き合っている相手は何か病気の治療中らしく彼女が面倒を見ているのだが、そのことを祐子からはバカだと言われているけどこれは祐子が彼女のことを心配してるから。
制作室ではチーフデザイナーの坪内(浜村純)から倉井がダメ出しされている。
「モデルに対する君の仕事以外の感情がこの仕事を甘くしている」だって。
そこに出社してくるのがフェロモンいっぱいの須川有子(北あけみ)いろいろと交友関係が広いみたいだけど、倉井は彼女にもコナかけてる様子。
今日は課内の会議。水沢部長(西村晃)とか塚本(伊藤久哉)、乾(織田政雄)とかから議題として語られたのは接待費と受注額のバランスがいまいちよくないので接待費の生きた使い方をしてほしいなどということ。
会議が終わったところに難波製薬から律子に電話がかかってくる。新薬の発表をするというご案内の連絡だったんだが、それならかなりの広告予算を割くだろうということで急きょ水沢部長じきじきにチームを編成、部長の指示でこの日に提出するスカル製薬の目薬の広告原稿を持っていくついでに難波製薬の予算にも探りを入れることに。
律子が出かけようとしたところに律子の姉・佐川実代(森光子)からの呼び出しがあり、彼女は近くの喫茶店に行きました。実代の年下の夫・佐川道男(児玉清)はほとんどプー太郎なので、実代は律子に金の無心に来たのであった。道男のことをこき下ろす律子に実代はカチンとくるけど結局は金を借りることに。外で待っている児玉清が若いこと若いこと。最近の役者で誰か似てるような気がする。
車に乗って律子は久江と一緒に出かけるのだが、車中で律子は男に入れあげる姉のことを最低と言うけど、それに応えて久江は「女に入れあげる男も最低。あたしはそれで別れたんだから」なんて会話をしてるんで、久江はバツイチだということが判明。「小じわが出てきた」という久江でしたがえらくそのことを気にしているみたい。
スカル薬品に提出した広告は宣伝部長だか課長(丘寵児)からは不評でどうもやり直しになりそう。律子は会社に戻る途中で難波製薬に顔を出してこちらの宣伝課長(石田茂樹)から宣伝予算を聞き出そうとするのだが、そこにはライバル会社の大通広告社の坂井(宝田明)が先に刺さっていたのであった。
終業後に律子は雀荘で同僚のみなさんと麻雀を打っているところになぜかまた坂井登場。本筋には特に関わらんくだりですが個人的には好きなくだり。
一人自宅のアパートに戻った律子、しんみり一人でウィスキーなんぞちびちびやってるとそこに久江がやってくる。別れた夫に会ってきたそうで、飲んで食事した帰り道。その別れた夫の優しさを語る久江は最後には泣き出してしまうわけで、それを見た律子は「ダメねあんたって。情けなくなってくるわ」などとつぶやくのでした。

スカル目薬の広告は作り直し。すごい服着たモデル(清水えみ)がやってきて倉井と軽口など交わすんだが、やっぱこの二人はデキているのかも、と視線を送る北あけみ。
同じころ、湯沸し室でコマンチは祐子に借金を頼んでいた。
「(男の)入院代と部屋代で給料が飛んでしまったんです。十日以内に返します。お願いします」
しかし乱暴ながらもコマンチの身を気遣う祐子はその申し出を断り、男と別れるよう説教。
「お前を一度は捨てて逃げた男だ。病気でどうにもならなくなって舞い戻ってきた。女をなめてる。そんな奴かまうな!」
その通りなのはわかってるのに苦悩し涙するコマンチ。その様子を見て、祐子は彼女の男が死んだのかと思い込みます。

難波製薬の会議室では宣伝部長(松本染升)から新薬の広告について発表がなされ、いわゆるコンペでどこに任せるかは決めるということになりました。
その部長に呼び出された律子、何の話かと思ったら縁談。見合いだけでも、という部長にやっぱり新薬の広告予算を聞き出そうとするんだな。その足でスカル薬品に顔を出してみたらなぜか倉井がモデルの子と一緒に宣伝課長と打ち合わせ中。倉井は能力はともかく世渡りはうまいタイプなんだな。担当なのにないがしろにされた律子は当然カチンと来て、帰りの車中で倉井に文句を並べる。
一方の大通広告社、坂井は上司の保田(稲葉義男)と今回の難波製薬の対応を打ち合わせ。自前のデザイナーが手一杯で仕方なく外注にすることを決定。できるなら大物を使いたいという保田。
一方の西銀広告は水沢部長のもと律子と坪内が方針を検討していた。斬新な方向性でいこうという坪内に対し水沢部長はオーソドックス路線を主張。律子も坪内に同調するんだけど結局は部長の主張どおりに方針決定。不満げな坪内にちょっと心配な乾。

律子は坂井から呼び出されて飲みに行きます。その場でいろいろ情報交換してそこでも坪内さんの名前が出てくるんだな。で、律子が早々に帰った後、まだ会社で仕事中の坪内さんに坂井は電話していた。ここでバーの女(宮田芳子)と坂井との会話から坂井のちょっと情の薄い人間性がわかります。
律子は実代のところに行って父親の十七回忌の話などしていた。律子は出られないから、とお金を預けて道男の帰宅したタイミングで帰宅。しかし、麻雀で負けた金の支払いに律子の置いて行った金を使おうとする道男、だめなやっちゃ。児玉清のいろいろダメな芝居が見どころ。
帰宅する律子を駅で待っていたのは倉井。スカル目薬のコピーを考えよう、ということで律子の部屋で二人で検討会。女の魅力は男がつくるもんだろ、とか言って倉井は律子を押し倒すんだけど失敗。翌日の制作室で有子にそのてんまつを語った倉井、「あの女ちっとも興奮しねえんだ」とか毒づいて有子といちゃついてます。二股かけてやがる。
会社の屋上では祐子と律子が語り合っております。最近なんかイキイキしてる、という祐子に律子は何かいいことあってもいいじゃない、などと語りつつ自分のキャリアを振り返るのだった。7年いつも追いかけられるように働いて気がつけばもう27などと語っていると乾が来て、律子の縁談をなんとか今回の仕事が終わるまで引っ張ってほしいとのリクエスト。
一方の坂井、坪内を取り込もうと接待攻勢。結果は成功。律子も難波製薬の宣伝課長をご接待。このあとはおさすりバーに出動だ!などと塚本=伊藤久哉と盛り上がって、塚本がトイレに席を立ったらおさわりでセクハラ開始される始末。

コマンチが会社の金を使い込んでしまい、もし次があったらその時はクビだと乾に告げられる。コマンチになんでそんなに冷たく当たるんだという律子は祐子と口論、それを仲裁する久江。祐子がコマンチを問い詰めると、男はどうも死んでしまったらしい。
難波製薬チームの打ち合わせに坪内は歯痛で遅れるとの連絡でしたが、実はそのころ大通広告社では坪内が現金攻勢の坂井とこそっと打ち合わせしていたのでした。
難波の宣伝課長を訪問した律子はなんだかえらいキメてきてる。坂井が先回りして課長と話し込んでるけどそのまま課長も交えて麻雀だ!ということで塚本も参加して麻雀大会。でもその場で坂井に坪内から電話が。いぶかしげな律子。麻雀のあと律子は坂井とあまり流行ってなさそうなバーでサシで飲んでます。坂井の人間性を皮肉る律子だが、逆に坂井に「君も職業病に毒されてる。君は女として女の感情に燃えたことが一度でもあるのかい?」とツッコまれ悪酔いしてしまう。具合を心配する坂井に惚れてる律子は、「あなたがいるから余計に苦しい」などと本音を吐いてしまいます。坂井は律子をお茶の水あたりのホテルに連れていき、「ぼくの気持ちはもう決まってるんだ」などと告げ一夜をともにしてしまうのであった。

コマンチはここしばらく出社していない。
倉井がスカル目薬の広告で日新賞を受賞する。なんか広告関係のすごい賞らしい。
律子の考えたコピーをそのまま使ってるくせして倉井は全部自分の仕事とマスコミに伝えたようで、他の課員は不平たらたら。倉井は鼻高々。難波製薬の広告は大通と西銀の企画がまず通ったとの報せをうけ、さっそく西銀は製作開始。一方の大通のほうも坪内のプランで製作開始。坪内さん忙しすぎだろ。
そして納品の日。律子は難波製薬で坂井とご対面。広告は難波製薬の宣伝部長らが選定して、大通の原稿を見た律子はそれが坪内の手によるものと知る。帰り道、「ぼくの君に対する気持ちだけは信じてほしい」と坂井は律子に告げるけど
「相手方のディレクターを抱き込むなんてやり方が汚いじゃないの!私はもうあなたにはついていけない。自分がみじめすぎるわ。でも私は生きていかなくちゃならないのよ!働かなくちゃならないのよ!」
と答え一人去っていく。

会社に戻った律子は坪内をとっちめます。坪内さんは
「俺も歳だ。(中略)今の俺は買い手があるときに売るよりほかないんだ。…辞表を出すよ」とさびしく答える。
でも律子はその辞表を「私が次の仕事まで預かっておく。あなたにひとつ貸しができたわよ」
コマンチが飛び込み自殺した。彼女の男は病から回復したとたん彼女を捨てて逃げて行ってしまったのだ。男は死んだのではなかった。
久江いわく「男のために身動きできないくらい借金していたみたい」
祐子は「あいつは上野の博物館でも通用する珍品でしたよ」などと泣き笑いしてまとめちまうけど、珍品はコマンチだけではない、と律子。
「男って、どうして自分を作るためにしか女を必要としないのかしら…何か忘れてるわ」
とつぶやきます。

坂井は保田からレストランで今回の難波の件で労をねぎらわれていた。
一方の律子は西銀のアイディアが大通に筒抜けだったことで詰問されていた。そりゃそうだが無関係だと強く弁明する律子に、水沢部長は「今後も頼むよ」と何かすきっとしない雰囲気でねぎらう。縁談は断るように乾に頼む律子、「君は一生結婚しないつもりかい?」と問われて「自分で納得したら、結婚したいと思います」と答える。
倉井は調子に乗って西銀を退職。えらいでかい封筒の辞表を出して、水沢部長も「放っておけ」当たり前だけど誰も彼をよく言わないんだね。そんな律子を道男が訪ねてくる。実代から無心を頼む手紙を持ってきたんだが、その手紙を律子は破り捨ててしまう。児玉清のお芝居が下手すぎてステキです。
道男を帰した律子を倉井が待っていて、「アルバイトしない?キャッチフレーズだけやってくれりゃいいんだ」などと誘うんだけど、次の職場では彼は高給でスカウトされたんでやっかまれてしまい、同僚は誰も手伝ってくれないので困っているとの話。でも律子は倉井の顔を張って立ち去る。
あいつ(倉井)はどうせ大したことできない、なんて祐子の台詞を聞きながら帰宅しようとしていると乾から次の仕事の話が持ち込まれ、ちょっと明るい雰囲気。律子は久江と祐子とで飲みに行こう!と盛り上がったところに坂井から電話。弁解めいたセリフのあと
「もう一度会ってもらえないか」なんて言われるけど
「街でばったり会ったらまたお酒でも飲みましょう。笑い話にしてもいいわ。じゃ、さよなら。お元気で」
と律子は電話を切る。
夕暮れの街に出ていく三人の姿を追って映画は終わるのでした。


見てると「こんな奴いねーよ!」とツッコミたくなるキャラが(例:大塚道子のキャラ)連発で登場するのが第一印象。でも、この当時はまだ働く女性ってのは腰掛け的に会社にいたりする場合が多かったわけで、ここでの律子はじめとする女性たちが仕事にしがみついている姿はたぶん同時代的には変な感じだったろうなと思う。自分的にも、この人は何でここまで仕事にこだわるんだろうか?と考えてしまう。そう感じてしまうのは、自分も古いジェンダー観にとらわれているんかしら。劇中の律子ほかメインキャラが「どうして男はどう、女はこう」と語る言葉がこの映画で言いたかったことなのだろうなー。古いタイプの女性観を表現するキャラとして、まず若い水野久美演じるコマンチ(なんでこの愛称なのかは語られないけど)が置かれているのがちょっと面白い。それをダメ押しするのが森光子演じる実代というキャラクター。昔風の女性を森光子がやるのは判るけど、でもこの人が演じるとここまでだめんず押しの女でもこんな後ろ暗いのでなく、もっと前向きに明るい女性のような気もするんだがな。そんなわけでこの作品のキャスティングは意外な感じが強い。宝田明演じる坂井も、この人がやってるから微妙にさわやかになってるけど、まぁこれはこれでいいか。でも、だいたいあそこまでずるいやり方で仕事をとってきてるんだからそりゃ嫌われると思うが、なんか宝田明でやるとこの人物がものすごーい無邪気にひどい裏ワザ使ってるみたいで、そのくせもう一度会いたいなんて甘ったれたことを言ってるんだから周囲からするとこういう人物もあまり付き合いたくないかも。面倒見てる上司も稲葉義男だけだもん。この人が背広姿でなんかやってるとどうしても「ザ・ガードマン」になってしまうのは自分だけだろう。
まあ会社ってのはみんなの御奉公で成り立ってるんだからねぇ。とはいえそこでの仕事だけに人生の意義を感じるのも長い目で見れば危険ではある。そんな男性も多いし。律子もいずれは仕事だけで人生が終わってしまう人間になってしまうのかもしれない、という示唆もある、かな?これはいま思いついたけど。
でも見てるとやっぱり時代を感じるなぁ。オフィスでは喫煙おかまいなしだし、当時は軽いたばこなんてないのにそれでもみんなスパスパやってんだものな。出かけるのも運転手つきの社用車だし、みんな麻雀打ってるし。
今はどっこも禁煙。運転手さんつきの社用車なんて取締役社長でもないと使えないし、麻雀なんて若い人はぜんぜんやらない。
東宝だけにサラリーマンの描写は上手。出演者もそれに慣れてるし。伊藤久哉の出番が多いのが珍しいかも。石田茂樹もそう。典型的な中間管理職を上手に演じています。のちにウルトラマンの中の人になる古谷敏もちょこっと出演。
児玉清の芝居については、まぁねぇ(笑)三橋達也のダメ男キャラと違ってリアルすぎて笑えん。監督からしごかれただろうに、それでもこれかい!と言ってしまうと身もフタもないが。
監督の鈴木英夫は役者に厳しかったことで有名だけど、そのせいかえらいピリピリした雰囲気の作品を作ってた。サスペンスものには向いているひとで、後で見た「悪の階段」なんてのもあまり東宝らしくない佳作だと思う。ご本人はあまり気に入ってなかったみたいだが。このひとのカラー、大映ならわかる。佐原健二とか佐藤允がどえらくこきおろされたのは有名らしい。児玉清も自伝に悪口書いていたし。なんかの本人のインタビューでも、宝田明を「大根」と語ってたし。そのくせ女優にはどうも甘かったみたいだけどねぇ。女優は悪口言ってないみたいだもん。
チョイ役のバーの女の宮田芳子とか金貸しの件で原知佐子がとっちめようとする同僚のメガネの女社員(柳川慶子)とか、えらいキャラが立ってて出番が少ないのがもったいない気もする。クレジットも上の方だし。そういう意味では女優を使うのがうまい監督だったということになるのかも。
なにはともあれ、きちんとした佳作でありました。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

June 22, 2017

国際諜報局(レビュー)

せっかく高い金出して買ったソフトなので、グチだけ書いておいても仕方ないからちゃんとレビューもしておこう、うん。
いつのまにやらこんなことになってしまっていたのは少し悲しいけど。でもこれは本編ディスクのみで、2枚組じゃないし、うん(T_T)

でも、今にして思うとなんでこれを見たいとすんごく思っていたのか、思い出せない。ソフトの存在を知ってからもうだいぶ時間が経ってしまってるもんなぁ。ま、もともと昔の007シリーズが好きだったからたぶんそのスピンオフ的な作品なんだろうなと想像していたからに違いない。でも、007シリーズの共同プロデューサーだったハリー・サルツマンとアルバート・R・ブロッコリの間にはこの作品あたりから温度差が出てきてるんだろうなということはよく判った。比較的シリアス路線でいきたかったサルツマンと娯楽路線を進めたかったブロッコリ。のちにその流れの中で「女王陛下の007」が制作されることになり、これがいまいちヒットしなかったことで007シリーズはブロッコリが制作の主導権を握ることになってしまった。
007シリーズのアンチテーゼ的な作品なのに、肝心の007シリーズのプロデューサーがこれを気に入って制作したうえにこれが高評価という、なんだか皮肉な成り立ちだけど実際に見てみたら確かにかっちりした良い感じの作品でした。

Pdvd_001


国際諜報局 The Ipcress File(1965)
原作 レン・デイトン
監督 シドニー・J・フューリー
制作 ハリー・サルツマン
制作総指揮 チャールズ・D・カッシャー
音楽 ジョン・バリー
美術 ケン・アダム

例によって以下は思い切りネタバレ

朝のロンドン。駅から列車に乗ろうとしたラドクリフ博士(オーブリー・リチャーズ)が誘拐され、護衛についていた情報局員が殺された。
陸軍軍曹のハリー・パーマー(マイケル・ケイン)は監視対象の張り込み任務の交代で出勤したところロス大佐(ガイ・ドールマン)に呼び出され、ドルビー少佐(ナイジェル・グリーン)のチームへの異動を命じられる。
ロス大佐に連れて行かれた場所は「ドルビー職業紹介所」なるところ。まずロス大佐がドルビー少佐に状況を確認した会話によれば、この2年の間に126人の政府の研究者が辞めているが、このうち16人が辞めた理由や状況が不明であるということ。今回のラドクリフ博士は誘拐されたことが明らかなので、初めて手がかりを科学者の行方不明についての手掛かりを得ることができる、ということでロス大佐はドルビー少佐の課にラドクリフ博士の奪還を指示する。ハリーは博士を護衛していて殺されたテイラーの代替要員として連れてこられたのだった。
ドルビー少佐はハリーの勤務評定を本人の前で読み上げるんだけど、それによれば
「反抗的、尊大、無秩序、犯罪的傾向あり。最後のひとつは役に立つかもしれない」
とハナからイヤミを言われて案内されて連れて行かれたのはアストラ社なる花火の会社。さらにこの奥にあるS.E.T.Aテレビ広告社なる会社の編集室でドルビー少佐の課員を紹介され、任務を伝えられる。ラドクリフ博士を奪還できなければこの課は閉鎖されると告げるドルビー。
「博士を売りに出せる力があるのはヨーロッパに二人いるが、そのうちの一人は二か月前に逮捕されている。残る一人はエリック・アシュリー・グランツビー(フランク・ガティフ)暗号名はアオカケス。去年の10月にウイーンで目撃されて以後は姿を見せていない。ロンドンの潜伏場所をあたって、接触したものは我々が買うと伝えろ」
というわけで、ハリーは親しくなったジョック(ゴードン・ジャクソン)からこの課のしきたりなど教えられたけど、
「ドルビーのやり方は肌に合わない」
と単独行動開始。まず彼が向かったのはスコットランドヤード。知り合いのパット・キートリー(スタンリー・メドウズ)に頼んでグランツビーの駐車違反歴などを洗い出し、車のナンバーも確認するとグランツビーが駐車違反で何度か違反キップ切られたサーロー街へ。
グランツビーの車を見つけて張り込んでると現れたのはグランツビーの参謀役のイワツバメ(オリバー・マクギーヴィ)パーキングメーターの料金を追加して去っていく彼を尾行してみると、入った場所は科学博物館の図書館。パーマーはそこであっさりとグランツビーを発見し接触するのでした。
「我々は列車で紛失した大切な研究用の機器を捜しています。手を貸してほしい。取引したい」
「6時以降に電話を」
とグランツビーはハリーに電話番号を書いたメモを渡します。それを持って出たハリー、すぐさまその番号を電話ボックスから交換に確認したところそれは停止されている番号。
そばを通り過ぎていくイワツバメとグランツビーをハリーは追いかけて呼び止めます。それを眺めているメガネの男が一人いました。彼は図書館の中でもグランツビーを見張っていた男。イワツバメとハリーは乱闘したあげく、グランツビーともども逃げられてしまいます。

オフィスに戻るとドルビーから課員は報告を求められますが、誰も収穫なし。そんな中ハリーは「接触しました」と報告。使っていない電話番号を渡され尾行をまかれた旨伝えますが、
「報告書を出したらまた創作に戻れ」とつれないドルビー少佐。
ジョックは「彼はきみの働きを喜んでる」と彼をほめますが
「妙な喜びかただな」とハリーは不満げ。

ハリーは買い物をして帰宅。すると点いていないはずの電燈が点いている。ドアを開けた形跡もある。春風亭昇太のようにハリーは独り者なんだもの。
銃を構えて中に入ってみると、そこにいたのは女性課員のジーン・コートニー(スー・ロイド)彼女が言うには
「ドルビーは新人を調べるの」
部屋の中をあらためられたハリーは、
「じゃあウィスキーの場所は?」
「判るわ」
「二つ頼む」
料理を始めるハリーはコートニーと身の上話など始めます。
コートニーの夫も情報機関で働いていたが東京で殺され、彼女の今の仕事は軍が世話したものでした。
ハリーも営倉から拾われてきた身の上であることを話します。
ベルリンにいたころにいろいろやらかしていたと語るハリー。
二人分の食事を作ろうとしてコートニーを一緒に食べようと誘いますが
「食欲がないの」と断られてしまいます。

あくる日オフィスでジョックから報告書の書き方など教えられていると、キートリーから電話でイワツバメが逮捕されたと教えられます、急いでスコットランドヤードに行ってみると、イワツバメは殺されていました。ハリーの名前を騙った男が先回りして彼を殺害していたらしい。
イワツバメの逮捕記録を見ると、容疑はスーツケースの不法所持。そのスーツケースは偽のハリーが持って行ったそうで、中身は電子機器だったと教えられます。逮捕された場所はサンダーソンの廃工場。
そこにラドクリフがいると踏んだハリーはスコットランドヤードの保安部を動員して廃工場に突入。しかし、中はもぬけのカラ。天井から下がった十字に組んだ鉄製の梁があるだけでした。ドルビーからは
「持ってもいないCC1権限を二度と使うな」
と叱責されてしまいます。
皆が撤収する中、ハリーがあたりを調べてみるとまだあたたかいストーブの中から燃やそうとして燃え残った録音テープを見つけます。そこには「IPCRESS(イプクレス)」との文字が。それを再生してみると奇妙な電子ノイズが聞こえるのだが、それが何なのかは判らないまま。

帰宅途中、ハリーがスーパーで買い物をしているとロス大佐に出くわします。買い物でたまたま一緒になった訳ではなくて、ロス大佐はドルビー少佐に内緒で捜査資料をマイクロフィルムに写して渡すようにハリーに命じます。断れば君は営倉に戻ることになる、と告げロス大佐は去っていきます。
帰ればコートニーと一緒にまた料理してるわけだけど、彼女はハリーを監視しているらしい。でも誰の命令なのかは彼女ははっきりとは教えてくれない。
本当は休みの土曜日に、ハリーはドルビーに近衛歩兵第4連隊のコンサートに連れて行かれます。グランツビーのメモはこのコンサートのチラシだったのでした。行ってみると、そこにグランツビーが現れドルビーは彼に取引を持ちかけます。
「研究用の機器に興味がある」
「陽子・陽子拡散の機器に?」
「君はその独占権を持っている」
グランツビーはその独占権を売ってもいい、と告げ25,000ポンドで商談が成立。しかしその場にもあのグランツビーを見張るメガネの男がいたのでした。

秘密の交換取引は無事に終わったかと思いきや銃撃戦が発生。ハリーは相手を撃ち、倒すのだがそこで死んでいたのはグランツビーを見張っていたあのメガネの男。実はCIAのエージェント。CIAはグランツビーを監視していたのでした。ハリーはラドクリフ博士の護衛を命じられ、彼に付き添い外出。それをまた別のCIA要員が監視しています。ラドクリフ博士は高エネルギーシンポジウムで講演をすることになっていて、ハリーが会場に連れて行くのですが博士は肝心の研究に関する記憶をすべてなくしていたため講演を始めた途端に絶句してしまいます。そしてCIAは今は仲間を殺したハリーを監視していることが判明します。

Pdvd_004

ハリーはグランツビーに返金交渉のために会っていたけど、交渉になりません。むしろグランツビーとの関係をCIAに疑われる状況。そんななかジョックはあることに気づきます。
謎の単語イプクレスはInduction of Psychoneuroses by Condition Reflex under Stress を短くしていたものでないかと。ジョックは「博士に会って実験してみる」とハリーの車を借りて博士のもとへ向かうが、その途上何者かに射殺されてしまいます。
Pdvd_005

「ジョックは自分と間違えて殺された」と考えたハリーは、ひとまずコートニーの家に隠れることにして一度自宅に戻りますがそこには彼を監視していたCIA要員が死んでいました。あわててオフィスに戻るとジョックから借りた本をはじめとする捜査資料を引き出しに鍵をかけてしまっておいたのに開けられていて中身はからっぽ。ハリーはドルビーに電話し「話したいことがある」と直接会うことにします。
現れたドルビーに、ハリーはCIA捜査員の死体が自宅にあったこと、捜査資料が盗まれたこと、そしてその犯人はおそらくロス大佐だと伝えます。イプクレスの謎が解けそうだったタイミングで自分を罠にかけようとしている。そしてロスは資料を見たがっていた。
ドルビーはハリーに姿を隠すよう指示します。死体もなんとかすると言い、夕食の約束の場所に向かい去っていきました。
ロンドンからしばらく離れるためにコートニーに見送られて出かけていくハリーですが、ハリーが出て行ってすぐコートニーはロス大佐に電話しています。ドルビーはそのころロス大佐に会ってハリーから聞いた話を伝えていました。ロス大佐はグランツビーを捕えるよう指示します。夜、大陸横断列車に乗ってロンドンを離れたハリーは車中で何者かに捕えられてしまいました。

ハリーが目を覚ますと、そこはいずこともわからない狭い牢屋の中。古い石造りの建物らしい。壁には今までそこに囚われていた人々の言葉が刻まれている様子。ハリーはベッドの下から曲がった古釘を見つけ、これで壁に何日経過したかを刻んでいく。出された食事もとらず数日ほぼ寝たまま過ごしていたハリーのもとに、彼のことを診察しに来た医者と共にグランツビーが現れます。
「なぜ誰も話さないんだ」とのハリーの問いに
「ここはアルバニアだからな」とはグランツビー。彼の母国だとのこと。
「俺は飢えや寒さにも耐えられる」と強弁するハリー。資料を見たと続けると
「だから連れてきた」と彼がここにいる理由を教えるグランツビー。
「二日、様子を見てから施術だ」と部下に指示を出します。そしてハリーが目を覚ましてから一週間経過。
ハリーはすっかり衰弱状態。医者のもとに連れてこられて、イスに縛られてまた別の部屋に連れて行かれます。
連れてかれた広い場所には、あの廃工場で見た十字型の鉄製の梁がありました。それには灰色の半透過スクリーンで四方を囲んだ台が吊るされていて、ハリーはその中に入れられ台を吊るして部屋を真っ暗にしてから「施術」が始まります。
ハリーを取り囲む不思議な映像と共に、あの廃工場から回収したテープから聞こえた変な音が大音量で響く状況。体が衰弱しているハリーにはとても神経的に耐えがたいけど、イスに縛られているから耳をふさぐこともできません。静かになるとグランツビーが語りかけます。
「リラックスだ。私の声を聞け。私の声だけを聞け。君はイプクレスの音を忘れる。君はイプクレスの捜査資料(ファイル)を忘れる。自分の名前も忘れる」
「ハリー・パーマー、俺の名はハリー・パーマーだ」
「君に名前はない」
「俺の名前はハリー・パーマーだ!」
施術とは、映像と音とで感覚を以上にしたうえでの催眠術みたいなものらしい。
一生懸命抗うハリー、彼が縛られた手を動かしすぎてけがをしていて、その痛みが施術を妨げているとみたグランツビーは一度施術を中止し、けがをしないように対策をしたうえでハリーの寝入りばなに無理やり連行して施術をして強ストレス状況での施術を何日か続けるのでした。
すっかり衰弱度が進みもうあかん状態のハリー、かれこれ5日ほど連続で施術されていますがまだ何とか意識はぎりぎり保っている。でも今回の施術では握りしめていた古釘も手から落ち、指示通りに目をつぶる。
「君はイプクレスの音も捜査資料も忘れる。自分の名前も。ある声が聞こえてくる。君は必ずその声に従うんだ」
施術がうまくいっていると見たグランツビーは別の声で呼びかけます。
「君は国を裏切りここにいる。同盟国の捜査員を殺した。イプクレスの捜査資料を盗み英国の敵に売った裏切り者だ。復唱するんだ。この声が「聞きなさい」と言ったら必ず従う
復唱するハリー。施術はうまくいってしまったのか?指示通りに反応するハリーを見て、グランツビーは満足します。

しかし独房に戻されたハリー、実は施術は効いていませんでした。寝付いたところを連れにきた守衛たちを殴り倒し、拳銃を奪って脱走に成功します。実は倉庫だった建物の外に出てみると、そこには見慣れたロンドンの光景がありました。夕方なんだか夜なんだかよくわからない時間帯だったけど、彼は電話ボックスに飛び込みドルビー少佐に電話をかけます。
「どこにいる?」とドルビー。その隣には、なんとグランツビーがいました。
「試してみろ」とグランツビーに促され、ドルビーはハリーに語りかけます。
聞きなさい。ロス大佐に電話して倉庫に呼び出すんだ。電話を切ったら私の言ったことは忘れろ」

倉庫にやってきたドルビー少佐をハリーが待ち構えていました。
話したら殺す、とハリーはドルビーを銃で脅します。ドルビーを壁際に立たせたところにロス大佐が登場。このロス大佐も銃で脅し、ハリーはドルビーの隣の壁際に立たせます。
「君に何があった?」ロス大佐がたずねると
「どちらかがそれを知ってる」とハリー。
はたして、本当の二重スパイは誰なのか?コートニーを使ってハリーを監視していたロスなのか?
ドルビーがハリーに語りかける。
「私の声を聞け。ロスを撃て。裏切者を殺せ」
わなわなと銃口をロスにむけるハリー、しかしそこで古釘でキズつけた右手をそこにあった映写機に叩き付け、痛みで意識を保ちます。その言葉を知っている人間をこれで思い出すハリー。
隠していた銃をとりだそうとしたドルビーをハリーは撃ち、倒します。

「君の反抗心を頼りにしてたよ」とねぎらうロス大佐に
「おれのことをおとりにしていただろう。命と精神を犠牲にするところだった」とハリー。
「それも仕事のうちだ」
ロス大佐はハンカチを出し、ハリーの血だらけの右手を拭いてやるのでした。


007シリーズを支えたスタッフが制作陣を固めているんだが、それっぽい雰囲気はぜんぜん感じられない。
ハデな悪の組織も、秘密兵器も、水着のとても似合いそうな美女も高級リゾートも出てこない。冒頭の張り込みはアンパンと牛乳が似合いそうな雰囲気だし、ジョン・バリーの音楽はスローテンポの地味な楽曲だし、ケン・アダムによる美術は007シリーズよりもむしろ組織にいる個人の矮小さを強調するような感覚ではないかと思った。ドルビーの部屋はムダに広いし、ハリーたちのオフィスもムダに天井が高くてドアがでかい。「未知への飛行」のスタジオセットと何か相通じるものが個人的には感じられた。とはいってもセットなのか、ロケなのかはわからないけど。そのかわり、ハリーの自宅とか買物するシーンなんかは生活感がたっぷり。ジェームズ・ボンドとは違ってハリー・パーマーは自分で買い物をして自分で料理をして、そんなに高い服も着ていない。高級品も身に着けているわけでもない、庶民的な主人公。ハードボイルド探偵ものの主人公がマーロウみたいな現代の騎士物語からアル中だったり人生で失敗していたりというどこか問題のあるキャラが主人公になっていった流れと重なって見える。チームとしての行動が苦手なハリー・パーマーは見事にハードボイルドな人です。デイトンの原作自体が冒険譚ではないしな。むしろ007シリーズをネタにしてわかりづらい皮肉やら練りこんだものだってのに、それを007シリーズのスタッフが映像化しているというネタにネタを重ねた作品の成り立ち。
でも、シドニー・J・フューリーによる芸のない硬質な演出に、オットー・ヘラーによる画のつくり方(何かの中からのぞいていたり、陰影の強い画調、赤色を生かしたセンス)が相まってなかなかの佳作に仕上がっていると思います。
横着な労働者階級のサラリーマンスパイの主人公をマイケル・ケインが飄々と演じていて好評だったそうで、この後に2作品を制作するシリーズ展開を果たすうえ、30年近くたってテレビシリーズが2作品制作されている。外部では、「オースティンパワーズ」の主人公はハリー・パーマーのギャグだし、シリーズ3作目では父親役でマイケル・ケインがそのまんま登場して楽しそうに演じている。「キングスマン」でもこれらからインスパイアされていると思われる部分もあるし(メインキャラクターの造形とか)キングスマンのリーダーのアーサー役でマイケル・ケインも出演している。思いのほか敷居の低い人らしい。
マイケル・ケインはショーン・コネリー以上のスパイ役者になってしまったなぁ。
今回は特にオチがないなぁ、と思ってマイケル・ケイン以外のキャストの方々になんか面白い話はないかと思ったらロス大佐役のガイ・ドールマンは「プリズナー№6」で№2をやってた方だったのね。コートニー役のスー・ロイドは「アベンジャーズ」「セイント」にも出てるし、一番驚いたのがジャック・ドゥミのカルト作「ベルサイユのばら」でポリニャック伯夫人を演じてるでないの。
みなさん頑張っていました


| | Comments (0) | TrackBack (0)

March 20, 2017

驟雨

成瀬巳喜男の作品って、実はあまり見ていない
こないだ「乱れ雲」見たくらいだもんな

さっぱり語ることができないまま今まで過ごしてきました。

で、たまたまご縁があってお話をする機会があった、とある有名な映画ライターの方に成瀬の作品でおススメされたのがこの「驟雨」

ちょうど原節子が亡くなったころで、原節子の特集などあった時期にBSで放映されたのを録画してあったので、おススメに従って何とかして見ようと思いつつ時間が経ってしまい…

ついこないだ、やっと見ることができた。

とても軽やかな、テンポのいいい編集に驚きました。

驟雨(1956年)東宝
監督:成瀬巳喜男

並木亮太郎(佐野周二)と妻の文子(原節子)は結婚して四年。住まいの最寄駅は小田急線の梅ヶ丘駅。子供はいない。この二人で結婚して四年というのはなんか違うような気がするが。
せっかくの天気のいい日曜日だというのに、亮太郎と文子はどこにも出かけるでもなく家にいた。
文子はせっかくの日曜日なのにどこにも連れて行ってもらえないことに不満がある。あまりお金に余裕もない。そんな文子に対して胃が弱いくせして亮太郎は屁理屈こねてやりこめて、ぷいと亮太郎は出かけてしまう。
家を出た亮太郎が見たのは、隣の家に越してきた今里念吉(小林桂樹)と雛子(根岸明美)の夫婦。引っ越し作業中の、内向的な文子とは違ってはつらつとして元気のいい雛子の姿についつい目線がいってしまう。
根岸明美スタイル良いなぁ。
文子が亮太郎に、出かけるなら、と頼んだハガキは玄関に忘れられていた。駅前に買い物に出てみると、やっぱいろいろ欲しいものはある。電器屋をのぞくとトースターとかミキサーとか、魅力的だけどお金のことが気になってひやかすだけでおしまい。ちなみに電器屋は佐田豊
念吉はそのさなかちらっと見た文子が気になっていたみたいで、現れたあや子(香川京子)に文子の所在を聞かれて「近所に買物でしょう」と買物かごを下げて出かけたと答える。これで雛子にちょっとイヤミ言われる。

文子が帰ると、新婚旅行に行っているはずの姪のあや子が待っているではないの。
ちょくちょく来るので面倒見てあげてるノラ犬も待っていた。
いきなり泣き出したりするので、聞けば新婚旅行での夫の行儀の悪い振る舞いに我慢ができなかったので帰ってきたとのこと。
そこに念吉は文子に引っ越しのあいさつをしに訪れ、そばの無料券を置いて行った。
行儀の悪いところを具体的にあや子に聞いてみると、列車に乗ったらいきなりグースカ寝てたり宿の中居さんにコナかけたりしてるとか、けっこうくだらない理由が続く。
おなかがすいてるだろうから、と文子はあや子にもらったばかりのそば券を使って出前をとるのでした。
文子は「夫婦なんてそんなもの。もっとひどいこともあるんだし、そんなことであなたを愛していないということにはならないんじゃないの?」と納得させようとするんだけど、あや子は「古い人と新しい人とは一緒にしないで。愛されているかどうは重要じゃない。一番は自分が愛されて幸福かどうかということだわ」
この答えにやや目が点になった文子。
そこに亮太郎が帰ってくる。
文子は腹が減ったという亮太郎にまたそばの出前をとることにします。
で、すぐ話が進むかというと、ご近所の黒林夫人(中北千枝子)が夫の靴をおたくの犬が持って行ってしまったので探してほしいと長々と文句を言いに来る。その相手をするのは結局は文子ひとり。
あなたも靴を捜してほしいという文子に亮太郎は、たまの日曜日に俺が靴を捜すのか?と偉そうに取り合わない。
改めて文子が、あや子に一番イヤだと思ったことを聞いてみると、あや子が言うには、一番我慢ならなかったのが、夫がたまたま一緒になった自分の知らない友人と一緒に飲み始めてしまい、騒ぎ出したのでひとこと注意をしたら二人で飲みに出かけてしまった。朝まで帰りを待っていたのにそんな自分を見てにやにや笑っていたのだそうな。もう東京に帰りたいと言ったら、付き合いというものがあるんだよという答え。「あなたは私に恥ずかしいとは思わないの?」と聞いたら自分は何も後ろ暗いことはしていない、変に思うのは君の勝手だと答えられた、というお話。
そのあとは口もきかずに東京に戻り二人は別行動だという。
亮太郎はあや子の夫の立場に立って彼の代わりに理屈っぽく申し開きをしてあげる訳だが、ちょっと立場は苦しい。文子と亮太郎が日々の互いの言動についてあれやこれや言うようになり、文子があや子の夫の話として亮太郎のふるまいについて文句を言うと(なんでも興味のない顔をするとか不精だとか)それを聞いてあや子はちょっと困ってしまう。この間に亮太郎は着替えて隣の裏庭に目をやると雛子が体操しているのが見える。雛子の姿についつい見入ってしまう亮太郎。
「相談するべきではなかったのよ。でもいろいろ参考になりました」と話のオチをつけようとするあや子でありました。そこでにわかに雨が降り出して、念吉に言われてあわてて洗濯物を取り込むやらどたばたとする文子。
本編で驟雨が見られるのは実はここんとこだけですな。

翌朝、亮太郎は念吉と一緒に歯をみかぎながら雑談
念吉のヨメさん雛子の若さをうらやむ亮太郎に対して念吉は文子のつつましさをうらやむのですが、このくだりでそれぞれの男たちがもつ感情がよくわかります。
文子は雛子と一緒に買い物に出かけます。その途中に雨山夫人(東郷晴子)と行き会いあいさつなどするんだが、雨山夫人はかなり髪が白くなってるんだけどその理由など雛子に教えます。その傍らでは幼稚園の遠足を園長(長岡輝子)がにぎやかに引率してる。
黒林夫人、片倉夫人(出雲八重子)、大串夏子(水の也清美)にその後行き会い、雨山夫人についていろいろくさす会話を山の手言葉で皆さん繰り広げるのがまた奇妙で面白い。そうこうしてるうちに亮太郎が帰ってくるのに出くわしますが、帰る道すがら亮太郎は雛子を映画に行こうと誘います。当然、双方夫婦でグループデートというつもりなわけだがその約束の日、文子はやはり行きたくないと不参加。お隣の念吉も頭が痛いと言い出して不参加なので映画には雛子と亮太郎の二人で出かけることになりました。
文子は一人で買い物に出かけるのですが、大村千吉演ずる下駄の露店のたたき売りの口上に聞き入って人の輪に入っていたら財布をスられてしまいます。やはり大村千吉の口上などに聞き入ってはいけない。
翌朝、亮太郎は上機嫌で前夜に見た夢など文子に語ります。そこで文子は財布をすられたことを亮太郎に伝えます。そのまま不機嫌な感じで亮太郎は出勤しようとしたところで念吉と出くわしますが、雛子が昨日お世話になったと礼を述べるのがあまり面白くない表情。園長先生はホウキ持って犬を追っかけてます。で、亮太郎を見て園長と雨山夫人があの犬はあそこのだとひそひそ話。チャボ食われたとかいろいろと迷惑してるとひそひそ噺。
亮太郎が出社すると部長(恩田清二郎)が昼休み前に集まるように号令。同僚の川上(加東大介)はどうせろくな事じゃないと言いますが、ほんとに部長の用件はろくなもんじゃなかった。提携先から営業部に人員が送り込まれてくるので4名の余剰の人員が生じるので退職希望をつのることになったという話。その代り希望退職の場合は退職金は割増されるという言葉に営業部社員の心は揺れるのでした。亮太郎は深刻な表情で貧乏ゆすりです。
その夜社員寮で川上ほか同僚(堺左千夫堤康久)と麻雀打って亮太郎は勝ちますが、やはりそこでの話題は会社を辞めるかどうかということ。退職金の割り増しつきなら…と心が揺れるサラリーマンたち。結局徹マン。駅まで迎えに出てた文子は、亮太郎の帰りをあきらめて家に帰りますがその途中、焼いも屋から焼いもを購入。
翌日、文子は亮太郎に日本橋の白木屋に呼び出されます。その白木屋の屋上では亮太郎は旧友の三輪(伊豆肇)と会っていました。ここの会話で、亮太郎は外国文学の専攻だったことがわかるわけで彼が理屈っぽいキャラなのも理解できます。プロレタリアートの嘆きも語るしな。「今は食うことが仕事」と言い放つことから、この人にも夢とかあったんだなと判ります。ちなみに三輪の奥さんは塩沢登代路(塩沢とき)けっこうブルジョアな暮らしのようで、買い物は車に…なんて夫に伝えてます。
そんな三輪夫婦の姿を見て気後れする文子でしたが、彼らが去った後に亮太郎のもとへ行きます。
すられた財布の件をわびると亮太郎、「カネは麻雀で取り返した」と返します。それを聞いてべそをかく文子。二人は連れ立って甘味処に入ります。三輪のことを聞かれて亮太郎、あれは親の後を継いだだけで苦労してない、田舎に帰れば俺だって…などとひがみを語りだします。で、割り増しになった退職金を持って田舎に引っ込んで暮らそうと文子に提案するわけだけど、彼女はあまり乗り気でないみたい。
文子が家に帰ると雛子が待っていて、園長先生に押し付けられた、犬にやられた鶏を渡される。買い取ることになっているということで雛子は園長先生にぐちぐち語られたことでちょい頭にきたものだから、そこで言われた文子と亮太郎の悪口をばらしてしまう。
自分からはあいさつしないだとか、焼いも屋が来ればすぐ買いに走るとか、安いから豆腐ばかり買っているとかいう話を聞かされて文子もカチンときてしまいます。でも豆腐は買う。
いろんなところで胃の心配されている亮太郎、念吉に文子の仕事を紹介すると言われてちょっとおかんむり。彼が帰ると川上はじめ同僚たちが待っていた。川上は近所の小森(松尾文人)という男を連れてきています。川上は「名案がある」と語るのでした。
酒を買いに出た文子、園長に呼び止められご近所の親睦を図る平和会議に出席するよう誘われます。
川上の語る名案とは、四人の退職金を合わせて串かつ屋をやろうというもの。どんな感じの店にしようかという話になったとき、モダンで上品な感じにしたい、ということで川上は文子みたいなつつましい感じでやればいいんじゃないかと言い出します。忙しいかもしれないけど文子に一人で店のサービスをやってもらうのがいい!なんてことで亮太郎以外は意見が一致。聞いている文子は面白そうにしていますが亮太郎は面白くない。そこに念吉がご近所会議に誘います。
会場の幼稚園に着くと、議題になってるのは犬の話。そこから始まって近所のいろいろ不平不満が語られます。結局は大した中身にならなかったみたい。
終わって文子が家に戻ると川上たちは亮太郎が帰したあとでした。文子を皆が外に出て働くようアプローチするのがとにかく面白くない亮太郎。文子は自分はその話を面白いと思ってたのに亮太郎がひがんでいると言います。文子は前々から共稼ぎしたいと言っていたわけで、結局は口論になってしまいます。「話がある」と言う亮太郎に背を向けて涙している文子、立ったまま飯をかっこんでました。「だっておなかすいてて泣きそうだったんですもの」
亮太郎は「おれは一人で田舎に帰る。君は残ってバーでもなんでもやっていればいい」と文子に告げます。
でも文子は「それもいいわね。二言目には田舎田舎というけど弟さんがやってるんですよ。長男だからって勝手に転がり込んで食べるだけは何とかなるだろうなんてそんな甘い考えだめよ。十万円の加算金がそんなに欲しいの?あたしにだってそれくらいのお金何とかなるわ」
と売り言葉に買い言葉。こうなりゃ別居だってやむを得ないという亮太郎に「ひとが真面目に働こうと言ってるのに封建的だわ。田舎に行けばコメがぶら下がってると思ってるのね。胃袋がたるむと気持ちまでたるむものかしら」
などときつく言い返されてしまう亮太郎。なにか云いたそうな亮太郎=佐野周二の表情が印象的。

あくる朝、文子と亮太郎は会話もなく朝ごはん。そこにあや子から手紙が届き、夫とは何とかうまくやっているとの文面と夫とのツーショット写真が同封されていました。
亮太郎が縁側に向かい新聞を読んでると隣の家の庭で遊んでいた女の子たちの紙風船が亮太郎の家の庭に入り、「おじさん風船とって」と頼まれます。
拾ってぽんと叩いて返そうとすると、これがこれがなかなかうまくいかない。亮太郎がひとりで紙風船に苦戦してるといつのまにか文子も庭に出て紙風船をついて、結局は文子と亮太郎の二人で紙風船でもってラリー開始。
「もっと強く!」
「その調子!」
と亮太郎に気合をかける文子。そんな二人の姿を見て「昨夜ケンカしてたのに勝手なもんだ」と念吉&雛子は不思議そうに呟くのでした。


すごい軽やかなコメディといえばコメディ、でもとにかく不思議な感覚の物語ではあります。
まずツッコミ入れたくなるのが佐野周二と原節子の夫婦が結婚して4年目という点で、この二人どんだけ晩婚なんだと思うところはある。でも、まず見てて感心するのは映画的な画面のつくり。亮太郎は変に理屈っぽいキャラで、最初は「何だこいつ」と見てて思うんだけどこの人の人間的なものが物語の進行に合わせてどんどん判るつくりになっている。何かあると貧乏ゆすりするんだが、その時にちょっとくたびれた靴が画面に示されるというカットにもこの人の生活とか性格とかが表れてて、ホントに映画的な表現が多いなぁ。ムダな説明的なセリフとかはなくて、画をみれば判るようなまとめ方。ほかにもいっぱい細かいニュアンスを示す画面がいっぱいあるんだけど、実際にこれは作品を見れば理解できるだろうなぁ。こうやって文字にするのが大変なのよ。文子のことを自分で何とかしてやりたいという気持ちもうまく伝わらない、そんなちょっとかわいいキャラの亮太郎もそんな表現の積み重ねで示されてる。
奥様同士の会話の山の手言葉の連発とか、あや子が並木家に現れて文句を述べたらこれが文子の文句にすり替わってるような流れとか、買わされた鶏を鍋にして食べる様子にご近所の平和会議のくだりは本当に喜劇的。個人的には、文子=原節子が財布をすられてしまうきっかけになった露天商が大村千吉というところに妙に納得がいってしまい笑いましたが。
性的なものが露骨に表現されているわけではないけど、亮太郎が隣家の雛子をにこやかに眺める様子とか、逆に念吉が文子に見入ってしまう様子とか、ちょっと含みのある描写が面白い。
含みがあると言えば、なんでか尺をとっている会話もある。亮太郎と念吉の歯を磨きながらの会話とか、亮太郎が昨晩見た夢を語る、その内容とか。作品の流れの中でなぜか軽く流されるわけでなく「ある」わけで,念吉なり亮太郎のキャラをソフトに示す材料になってる気がするな。他にも何かをつなげるものになってるような感じがする。歯磨きのくだりは、それぞれのヨメさんのキャラを示す手掛かりになってはいるわけですが。
もともとは岸田國士の戯曲を何作か組み合わせて映像化したものだそうだけど、もとが戯曲だとあまり映画にするのに手を入れないような気がするがこれはそうでもないだろうな。
これ見てて、素直に原節子ってきれいだなぁと思ったのが、最後の方で立ったまま猫まんまみたいなのかっ込んでるカット。やっぱ昔の女優さんはきれいです。
小津ならこんな感じの映画を撮ることができただろうかなぁ。成瀬の実験精神をしっかり発揮した作品になってると思います。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

May 30, 2016

超高層のあけぼの

DVDのソフトを買うにあたって、発売日を忘れていることが多い。
おかげで、けっこう後になって手に入れようとしたら絶版になっていて探し回るということになるケースが、自分の場合けっこう多い。忘れている期間が長すぎである。
一回こっきりのプレスということが最近は多いので、気がついたら本当に入手が難しくなっていることも多々ある。逆にこうなるとあきらめがかえってつかなくなってしまって、何とかして手に入れようとネットオークションなど目を皿のようにしてチェックをしてしまう。
この「超高層のあけぼの」も、発売になるけっこう前から情報は押さえていたつもりだったのにいざ発売になったらすっかり忘れていて、気がついたのは3年位前。ちなみに発売は2009年だったから、都合3年ほど買い忘れに気付かなかったことになる。気づいたときにはもう遅かった。すっかりプレミア価格で取引されていたのでありました。アマゾンなんかだと2万円超えてた時期もあったので、仕方なく気長にオークションで探して今回やっとこさゲット。その間にCSでも放映されてて一応そっちも録画したにはしたけど、出先じゃ見られないし何とかしてDVDが欲しかったのです。
いくらで買ったかは、やぼだから言わない。

 物語はというと、つまりは日本初の超高層ビルである霞が関ビルの建設工事を描いた群像劇。一応、メインになっているのは池辺良が演じる江尻所長なんだが、それ以外のキャストもとても豪華である。
見てみたかった理由は、一番はこの豪華なキャスト。そして、すんごい大作だったのに制作されてから30年あまり忘れられた存在になっていた不思議さ。
制作は日本技術映画という鹿島建設の系列会社で、現在はカシマビジョンと名を変えている。同じ会社で同じタイトルの短編記録映画も撮っているので、検索するとちょっとややこしい。

超高層のあけぼの 1969年
監督:関川秀雄
原作:菊島隆三
脚本:岩佐氏寿・工藤栄一
音楽:伊福部昭

昭和三十八年二月。東京大学で工学部の古川善二教授(中村伸郎)の最終講義が行われていた。そこで教授が説く。「過密都市となった東京は再開発の必要があり、そのためには超高層ビルの建設が必要である。しかし現状では法令でも、資金的にも、そして技術的にも課題がある。私の夢である超高層ビルの実現を若い世代に託すことになるだろう(だいたいこんな内容)」
講義を終え、研究室に戻った古川教授は来し方を振り返る「あれから40年が経った」
それは1923年(大正十二年)九月一日の関東大震災。帝大の学生だった若き日の古川教授(山本豊三)が昼飯のため下宿に戻ったところを震災が襲った。ちなみに下宿のおばさんは関京子であった。
多くの家屋が倒壊し火災が発生。そんな中で古川青年は医師である兄(平幹二郎)が懸命に救命活動をしているところにでくわす。兄の無事を素直に喜んだ古川青年だったが「よかったじゃない!亡くなったのは五万十万ではすまないんだ!」と叱られる。そのすぐそばで失われる命。そんな時、古川青年は大きな余震にも耐えてそびえ立つ上野五重塔に衝撃を受ける。五重塔の構造を徹底的に調べた古川教授は、地震に対抗するのではなく受け流す柔構造理論にたどりつく。しかしその新たな理論はなかなか学会では認められず、ようやく認知されつつあった状況ではあった。
そんなことを思い出していた教授のもとに来客。鹿島建設会長の鹿島守之助(佐野周二)とその妻であり副会長の卯女(三宅邦子)が訪ねてきたのだった。
「三井不動産から内々に依頼があったのですが、日本初の超高層ビルを作りたいのです。先生になにとぞご協力をお願いしたい」と鹿島はオファー、古川教授は理論的には可能だが解決すべき問題は多いとはじめは渋るのですが、鹿島の「いずれ誰かが日本の都市問題を解決するのに超高層ビルを作らなくてはなりません。先生のお力添えをお願いできませんか」と熱く語るのでした。その熱意にほだされ古川教授は鹿島建設入りを決意します。
古川教授は早速、持論の柔構造を導入し構造設計にとりかかります。彼を支えるのは教え子たちの面々、構造設計課長の佐伯(木村功)、課員の大原(池田駿介)、そして工事事務所長に内定していた江尻(池辺良)などなど。教え子のひとりとして、通りがかりの木下工事部長(丹波哲郎)はおまけ的に出てきます。
古川教授のもと、三井不動産への提案としてまとめられたのは36階建て、総工費180億円の建造物。
これに対して三井不動産の役員たちはこれを受け入れることを渋ります。しかし三井不動産社長の川島(八代目松本幸四郎)の鶴の一声で36階建て、総工費150億円で決定し建設がスタートすることになります。ちなみに三井不動産首脳陣は水野専務(花柳喜章)、芝常務(根上淳)、鮫島常務(永井秀明)などなど、けっこうな重量感。
時間と経費の問題で、主な構造材にH型鋼を導入しようということになり理論的にも使用可能であるとしてH型鋼を調達しようということになります。富士製鉄広畑の大型工事部長の竹本(渡辺文雄)に相談してみた所、ここでも高精度のH型鋼を多量に作るのはコストの問題から難しいと言われてしまうため、ここでも難題に直面します。
しかし江尻所長はH型鋼の使用を強く推します。結果として当初の予算に合わせるよう、工法などを工夫することを考えていたのでした。
正式に発令し江尻所長以下のメンツが決まります。というわけで江尻所長の家で工事担当者が集まり決起集会が開かれます。お世話するのは江尻の妻・佐知子(新珠三千代)。構造設計班と共に現場のスタッフとなったのは松本所長代理(鈴木瑞穂)、菊池工務部長(河合絃司)、佐々木第一工務課長(寺島達夫)、宮本第二工務課長(南廣)という面々。
佐伯が家族でスキーに行ったときに、転んだ拍子に新たな工法を思いつき、これで一気にコストダウンのめどが立ちます。しかしそのためには新しい形式のデッキプレートを開発する必要があり、ここでもまた江尻以下のスタッフは苦労することになります。同時に他の素材についても開発がすすめられます。表面のガラスは旭硝子、高速エレベータは日立製作所、建物全体のシミュレーションを石川島播磨で試験がすすめられていました。
で、これらの開発にかかるコストは松本幸四郎から値切られてしまい、これを承知する佐野周二の表情はほとんどコントです。
この辺での物語の小ヤマは、公開試験のためのH型鋼をなんとか調達しようというくだり。試験的に製造したものは試験用に細断されてしまったため、大急ぎで再製造を渡辺文雄に頼み込む木村功。その熱意にこたえ、工場のスケジュールを調整して大急ぎでH型鋼を作り至急便で送り出します。いつもと違うとてもいい人の渡辺文雄が印象的です。しかし、このH型鋼が試験に間に合うのかどうかで木村功ほかの面々はものすごくやきもき。悪天候のために予定の時刻に着くかどうか心配になって会社で各方面に問い合わせていた木村功はたまらなくなり試験場へ車で向かいますがその途中で事故を起こし、重傷を負ってしまうのでした。
公開試験の結果は大成功。その報を佐伯こと木村功は妻の直子(佐久間良子)に看病されつつ、病院で聞きました。この結果を受けて、ついに霞が関ビルの建設工事が着工されます。同時に広畑製鉄所ではH型鋼の量産を開始し、その第一便が東京に向けて出発、それを見送る渡辺文雄らのの姿で第一部が終わります。
見てから気づいたけど、これって実は二部構成の長い映画だったのね。ランタイムは2時間40分でした(^_^;)
とにかく伊福部さんの音楽がこれでもかと言わんばかりに響きます。

舞台は変わって、長野県の山中。東京電力の奈川渡ダムの工事現場。クレーンオペレーターの島村(田村正和)のもとを恋人の土橋道子(藤井まゆみ)が訪ねてきます。その間柄をなんとか聞き出そうとする飯場のおばちゃんは北林谷栄でありました。二人はラブラブなんですが道子は東京、島村は長野の山の中。遠距離です。でも島村は「今度、東京のど真ん中にでっかいビルができるんだ。そこの新型クレーンのオペレーターになって俺は東京に行くんだ」と告げ、ふたりは盛り上がるのでした。
ちなみに、問題のH型鋼はどう使われるのか?というのがこの後しばらくわかりやすく説明されるくだりが続きます。これの加工を請け負ってたのは横河橋梁だったのを知り、こないだそういえば橋梁が落ちた事故も横河だったたなぁ、と思い出したりしたのは個人的なことです。
鉄骨の組み立ての予定工期は台風シーズンを交わすために200日と設定されていて、そのためには何と言っても安全第一。現場のとび職人たちに下請けの磯部建設社長(菅井一郎)はその大切さを説きます。
「日本で147メートルの鉄骨をくんだとび職は一人もおらんのや。おまえらは超高層のスターや!」
とハッパをかけ、彼らをとび職の大番頭の小森(小林昭二)が率いることになります。現場のシーンでの映像は、この映画の制作当時に同じ工法で施工中だった浜松町の世界貿易センタービルの現場で撮影したそうで、実際にここで芝居もやってるんだけど高所恐怖症にはかなりこわい現場だったろうなー。
クレーンのオペは島村がやってます。で、ここで出稼ぎのとび職人・星野(伴淳三郎)が登場。
物語は現場レベルの人々によって展開していきます。
鉄骨の組み上げの作業自体は大変快調に進行していったのですが、ある日、島村のクレーンオペのミスでとび職を怪我させてしまいます。へこんだ島村=田村正和はすっかりくすぶり状態。そんな田村正和をやさしく励ましてくれるのは山形から出稼ぎのとび職人、星野=伴淳三郎であります。だけどその星野は星野で、デッキプレートの掃除をしてて落ちてたボルトをポイっと階下に投げ捨ててしまい、トラックの屋根に穴をあけてしまう騒動を起こします。もちろん江尻は星野をしかりつけるんだけど、素直に申し出てあやまる星野の様子を見て笑って許してあげます。
現場は年末年始のの休暇に入り、星野の帰省とか島村=田村正和が道子の両親にあいさつしに行くくだりが入ります。ちなみに伴淳三郎のヨメさんは利根はる恵。道子の父は中村是好とシブいキャストの配置です。
そんなこんなのタイミングでインドネシアから帰ってきた木下=丹波哲郎が登場。毒にも薬にもなりません。
三井不動産サイドでも、新しい超高層ビルのテナントを確保するためセールス活動を活発化させています。トップセールスで河島社長が東西石油の岡林社長(柳永二郎)を訪問、営業活動を行います。
雪のせいで工期が押してしまったり、さらに雷がバリバリ鳴り響く中での作業には島村がパニックを起こしたりします。

そしてついに、霞が関ビルは上棟式の日を迎えることになりますが、当然のごとくこのシーンはメインキャストのほぼ全員がそろっているシーンなのですごいことになっています。完成した霞が関ビルを仰ぐ人々の姿をとらえ、物語は幕をとじるのでした。

のっけから「この映画は讃える」なんて字幕に伊福部昭の重厚なテーマソングでそのヘヴィさに負けそうになります。そして、この作品には悪い人はぜんぜん出てこない。みんなビルを建てるのに一生懸命です。実際はドキュメンタリー的な作品なんで実名でやっても良かったんじゃないかと思うのですが、三井不動産の社長は川島ではなく江戸英雄会長だし、霞が関ビルの発案者で鹿島建設に副社長として招かれたのは古川教授ではなく武藤清。江尻所長は実は二階盛さんという具合に、いろいろ実在の方をモデルにして設定が変えられています。
「産業芸術映画」という新しいジャンルを作ったという鹿島守之助会長、この映画にはたいへん熱意をもって取り組んだことがよくわかる。えらい。この作品が制作されていた当時、ほぼ同時に進行していたのがあの「トラ・トラ・トラ!」だったそうで、ちょうど黒澤が降板してキャストの組み変えをしてたもんで有名どころの俳優さんを確保するのが大変だったというのもすごい裏話。今の作品とか見てても、こんな重量感のあるキャストはいないもんなぁ。
とにかく、人が人を動かすというのはその人の実直さがあってこそということを教えてくれる良い作品でありました。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

March 13, 2016

恋文(1953年新東宝)

実際のところ、この作品については積極的に「これ見たい!」と思ったわけではなく

きっかけになったのは、この写真であった。
Ccf20151201_0003_3_22

盛岡出身の映画女優、新東宝のお色気路線のスターだった三原葉子

今、このひとを再発見しようという取り組みをやっている。
そのなかで同級生だった方から分けていただいたのがこの写真。
とある催事のパブリシティにも使いました。
背景にあるのは旧盛岡中央劇場で、ここで上映されていた三原葉子も出演したこのシャシンはたしていったい何と言うタイトルのものだろうか?という疑問がそもそものきっかけ。三原葉子だから新東宝らしいということまではわかるけど…

丹羽文雄の原作で木下恵介の脚本ということから調べてみたら、これは1953年に制作された「恋文」という作品だったと判明。
中身を確認してみたら、なんとまぁゴージャスな作品だった。
監督は田中絹代。第1回監督作品であります。制作は永島一朗(香川京子の叔父にあたる方)
助監督がなんと石井輝男。
田中絹代の初監督作品ということもあってか脚本は木下恵介が担当し、これに成瀬巳喜男が手を入れたそうな。
もともとは彼女に監督させてみようという発想をしたのは小津安二郎だったって(^_^;)それに難癖つけたのが溝口健二という、裏話の段階でもはやオールスター。
キャストもオールスターというか、田中先生のためなら、と松竹・大映・東宝の俳優陣が勢ぞろい。
で、物語はというと

ビビアン・リーの「哀愁」となんか似てるよ。

弟・洋のアパートに居候している真弓礼吉は元将校の復員兵。英語とフランス語が得意ということで、洋の持ってくる翻訳の仕事を請け負ったりしている。その合間に礼吉は街に出ては誰かの姿を探している様子。
渋谷まで出向いた礼吉は旧友の山路と出会う。礼吉は、山路に自分の仕事を手伝ってほしいと言われたが、それは米兵の女になっている女性のラブレターの代筆。
家にいてじっとしているよりは、と考えて礼吉は手伝いを引き受ける。三原葉子はこの山路の店の向かいにあるだんご屋で大騒ぎしながらだんご食ってました。
山路の仕事を手伝う礼吉の様子を見た洋、山路の仕事場のあるすずらん横丁で自分の古本屋を開業することを決意。とんかつ屋の一部を借りて小さな店を仕立てます。
そんな折、山路の客としてやってきた女の声に礼吉は聞き覚えがありました。その女の後を追う礼吉、井の頭線の渋谷駅で彼女を見つけ出します。彼女は久保田道子。礼吉の幼馴染で、礼吉がひそかに愛していた女性でした。礼吉は街に出ては彼女の姿を捜していたのでした。礼吉が外地にいた戦時中に、道子は親の決めた相手と結婚していたけど夫は亡くなっています。
かわいさ余って憎さ百倍、ってわけでもないけど、自分が好きだったのによその男の嫁になったあげく米兵のオンリーにまでなった道子を礼吉はなじってしまいます。
生きるためには仕方なかったとはいえ、礼吉の言葉に道子は嘆き悲しみます。礼吉は礼吉で、自分の想い人が自分が生活のため客として相手にしているズベ公のオンリーみたいになってしまったことで酒に逃げちまいました。そのズベ公オンリーのラスボス的に、物語の中盤で登場するのは田中絹代先生です。
一方で弟の洋はそんな兄の様子を見かねて、道子の元を訪ねます。道子は一生懸命に求職活動していました。そして、やっととある立派なレストランのクロークとして就職します。
洋はそんな道子を礼吉と一緒にお祝いしようと考えますが、礼吉は意固地になってしまって「行かない」ということを聞きません。そんな礼吉を山路が張り倒します。それでやっと目が覚めた礼吉、山路と一緒に道子の下宿先を訪ねきついことをいったことを詫びることに。
かたや洋と一緒にいた道子、礼吉にお祝いしてもらえないことで「自分は許してもらっていない」とへこんで泣いちゃうところに、かつての「同業者」たちにまで出くわし汚れた自身の身の上を嘆き車道に飛び出してしまいます。
道子の帰りを待っていた山路と礼吉の前に警官が現れ、道子が事故に遭ったことを伝えます。タクシーに乗り、道子の運ばれた病院へ向かう途上、やはり道子が大切な存在であると再認識した礼吉はひたすらに道子の無事を祈り続けるのでした。

物語はまぁ、こんな感じで。
おそらくは礼吉と道子はハッピーエンドを迎えることができるんだろうなぁ、という感じの結末になってます。

大蔵体制以前の新東宝の映画はプロデューサーシステムでの制作が多いので、自前の俳優がいても外部から監督やら俳優やらを迎えての作品作りをしていたわけで、この作品もそんな流れの中の一本。
田中絹代の初監督作ってことで、出演者はゴージャスです。判明したのはだいたい以下の通り

真弓礼吉(森雅之)=大映
真弓洋(道三重三=国方伝
久保田道子(久我美子)=大映
山路直人(宇野重吉
山路の奥さん(たぶん高野由美)
古本屋の主人(沢村貞子
その娘・保子(香川京子
山路の店の向かいのだんご屋のおばさん(おそらく出雲八枝子
手紙かいてもらってるオンリーの女(北原文枝
だんごの差し入れする美人のオンリー(安西郷子
十本もだんご食ってるオンリー(三原葉子

礼吉の母(夏川静江
道子の継母(坪内美子
道子の父(高田稔
とんかつ屋の主人(花井蘭子
洋の女友達(関智恵子)なんか北原文枝に似てる
洋の店の手伝い(小倉繁
道子の下宿のおかあさん(入江たか子
ちょっとだけ出てくる洋の古本屋の客(安部徹
古株のえらくすれたオンリーの女(田中絹代
ケーキ持ってくるオンリー(月丘雪路
犬を抱いてるオンリーのおばさん(たぶん清川玉枝
レストランの支配人風の女(岡村文子
レストランの客(笠智衆 一瞬だけ登場 だと思う。一緒にいるのは三宅邦子?)
Pdvd_026

流しの歌うたいにちょっとだけリクエストする客(佐野周二
横須賀のマリー(中北千枝子)あと二人いっしょにいるけど、ちょっとわからん。
クレジットにいる花岡菊子と井川邦子が見つからない。
木下恵介も、クレジットには名前があるけど「写真屋」って役自体がないような。
あと、久保菜穂子も(予告編のナレはやっているらしい)

今作では監督やってる田中絹代ですが、やはり役者としても登場。で、やっぱ格の違いというか女優の心意気というか、見せてくれてます。ものすごいどうしようもなくズブズブの状態の、齢をくったオンリーを演じてるけど森雅之じゃなくても説教したくなる雰囲気満点。それにしても真弓礼吉は説教しすぎだよ、と思う。こんな男、理屈っぽすぎてモテないだろなー。演技と言えば、今作での道三重三こと国方伝、この当時は俳優座の所属なんだが森雅之の弟として彼にからむ機会が多いのはちょっと気の毒。あんま芝居できないんだもん。のちに新東宝の専属になる訳だが、これがある意味で新東宝クオリティかも。

田中絹代の監督作品は全部で6つあるんだそうで、その第一回作品がこれ。監督やるのを薦めたのは小津安二郎らしい。その映画的な勘のよさを高く評価してのことだったというけど、この作品見てる限りで監督としてのセンスはどうかというと、問題ないと思った。尺はともかく、本作についていうならこじんまりとまとまっていてツッコミどころもない感じ。これが初めての監督作ということを考えると合格点でしょう。とはいってもこの時代はまだ小津・成瀬・溝口ほか多くの名匠が活躍していた時代だから、それらに比べるのはちょっとつらいかな。でもこの人のセンスなんだろうが、コメディリリーフ的な女優の配置がうまいと思った。
とにかく、田中絹代の存在の大きさがよくわかった作品でありました。

| | Comments (2) | TrackBack (0)

February 27, 2016

南部騒動 妲妃のお百

 本当ならこれ以外にもいろいろ見てるんで、これより以前に見た「他人の顔」とか「白夫人の妖恋」とか、「女巌窟王」とか書くべきものもあるんだろうが

 今回は書くのが簡単そうなのでこれにしたのでした。小畠絹子の出てる映画のパターンって、だいたいはささやかながら幸福な生活を送るヒロインがどんどん転落していって落ちるところまで落ちて、でも最後は何とか希望のもてるオチになるのが定番なので、見てみたら今回もこの展開だったんだものなぁ。

南部騒動 妲妃のお百
監督:毛利正樹
脚本:大貫正義・葉山浩三
制作:大蔵貢

本来は南部藩でなくて秋田佐竹藩なはずなんだが、まぁいいや。

国屋敷があるから江戸なのかな?南部藩の御用米を一手に取り扱うのは桑名屋徳兵衛(岬洋二
ここで働く惣七(武村新)の一人娘・お百(小畠絹子)は人気者。そりゃ美人だからねぇ。
小畠絹子の転落はけっこう早く始まる。いきなり父の惣七が運んでいた御用米の米俵の下敷きになり重傷を負ってしまい、働くことがかなわなくなってしまったのだ。
そのかわいそうな様子に同情したお百のあこがれの男前の南部藩士の内海幸次郎(明智十三郎)は見舞金を徳兵衛に預けるんだが、徳兵衛はそれを着服。下心丸出しの徳兵衛は同情してるフリをしてお百を住み込みの女中として働いてもらうことにした。
まぁこれでやれやれひと段落、という流れになったところでお百は盗賊の不知火小僧(中村竜三郎)の捕物に遭遇、でもお百は不知火に脅されて捕り方に彼のことを教えなかったので、彼はその場をやりすごすことに成功。
「またな」と去る不知火小僧はこののちいろいろと関わることになります。

やっぱり、案の定、お百は徳兵衛に手込めにされてしまい、徳兵衛は彼女を妾にすると父親の惣七にわざわざ伝えに行きます。徳兵衛が留守にしている間にお百に届けられる内海さまからの手紙、お百は切ない気持ちを募らせるのでした。
で、惣七に彼の娘のお百を妾にすると伝えた徳兵衛、当然のごとく反対されます。
「俺はおまえが藩の御用米をくすねてんのを知ってんだ!出るところ出てやる!」
と寝たきりの惣七に凄まれた徳兵衛、カッとなり惣七の首を絞めて(スリーパーホールドだけど)倒してしまいます。
駆け込んできたご近所さんから父が大変と伝えられたお百は急ぎ家に戻ると惣七は虫の息。
惣七は最後の力を絞り徳兵衛にやられたとお百に伝えこと切れる。お百は復讐を誓います。

これ以後、お百はどんどん大胆にお妾さん稼業に精を出していく。
徳兵衛の女房・お初(加藤欣子 「女競輪王」でも活躍)が見ている前でも大胆にいちゃついたりして、どんどんお初の怒りはつのっていくのでした。そして、どっかの宿に二人がしけこんでいる現場にお初乱入。なだめる徳兵衛だったが、結局口論になりお初は徳兵衛に突き飛ばされ階段から転落し絶命してしまう。
桑名屋の苦難は続くもんで、大嵐が来てしまい持ち船三隻が全て沈んでしまい、ついに事業停止。残った家財を越前屋に売り飛ばし都落ちするのでありました。
その道中、お百は不知火小僧に再会。お百は不知火の手を借りて徳兵衛に復讐を開始。
不知火が徳兵衛の財布を隠し、困っているところに不知火が善意で金を融通してあげるふり。
そのついでに道中、不知火も同行する。地獄谷にさしかかったところ、お百は今までの徳兵衛への恨みつらみをぶちまけ持ってきた短刀で刺して、不知火の助けを得て崖下に落してついに復讐を遂げるのでありました。

それからのち、お百はいつのまにやら深川の料亭で小春という名で芸者にとらばーゆ。不知火はどこいった?
南部藩の江戸家老・吉川外記(芝田新)はそんな芸者のお百に心惑わされて内海をダシにこそっとあいびき。そこで外記は恐るべき陰謀をお百に伝えます。彼の計画は、お百を腰元として殿の元に送り込みその実は自身の子をお百に産ませ、それを南部藩の世嗣としてしまい南部藩二十万石(だったかな)をわがものにしようというもの。この計画に乗ったお百は八重菊という名で外記の営業の結果、見事に殿様(伊達正三郎)に気に入られ腰元に収まります。
それでもお百が忘れられない存在は、内海幸次郎さま。ドキンちゃんみたい。
一方の内海、彼は本流派の中心メンバーとして南部藩江戸屋敷にて勘定方として働いておりました。そんな中で外記がいろいろ金をバラまいていることが判明。江戸家老の谷口一角斎(久保春二)と困ったもんだと相談しておりました。
そんなこんなしてるうちにお殿様が出府してきて、使途不明金は内海が着服してると外記が殿様にウソを吹き込んでしまい、殿はこれを信じちゃったもんで内海はお目通りもかなわなくなってしまいます。
これは困った、と島耕作みたいになった内海は国表の家老、津島掃部介(林寛)に事の次第を手紙に書いて送ります。なんとか内海を守りたい掃部介は内海に何とかして外記の悪事の証拠をつかむように指示。たまたま一角斎の娘、糸路(やっぱりかわいいお姫さまぽい役はこの人、北沢典子)が行儀見習いに国屋敷に勤めに入っており、八重菊の世話係を仰せつかっていることを本人から聞き、糸路に八重菊の監視役をさせることにします。
内海も自ら八重菊の様子を見張っていますが、そこに久々に不知火小僧が登場。また捕物になります。
でもこれはおまけみたいなもんで、八重菊(お百)は殿に気に入られているという事実を利用して外記との関係もあんばいよく保っているのであります。
高僧の行雲(大谷友彦)の祈祷により、南部家代々短命なのは先祖が殺した白蛇のたたりのためなので、その白蛇のたたりを除くのには毎朝冷泉を飲み祈祷所で白蛇を安んじるべしという指示が伝えられます。同時に、不知火小僧がお百の現状を知り自身を屋敷にかくまうよう要求してきます。
お百は外記と相談し、八重菊がお百であった過去を知る不知火小僧を殺すことに。たらしこんでその隙に斬り殺すつもりだったのですが、これが失敗。お百が切りつけて傷を負わせただけで「おべえて(覚えて)やがれ!」との捨て台詞を残した不知火には逃げられてしまうのでありました。
翌日、糸路はこそっと内海に会い、彼に短刀を渡します。それはお百が不知火に手傷を負わせたときのもので、血のりが残っています。八重菊の部屋で何かあったに違いないと内海は確信。その様子を不知火小僧は見ていました。
そんな中、ありがたい冷泉を毎日飲んでいる殿様は体調がどんどん悪くなっていきます(やっぱり)
一方で短刀がないことに気付いた八重菊ことお百と外記、糸路の行動を怪しみウソの手紙をことづけて使いに出します。当然、中身を改めようとした糸路はその現場を外記に押さえられ捕まってしまいます。誰の仕業かを糸路に吐かせようと外記は彼女を縛り上げ拷問するのでした。外記といっしょに糸路を責める侍は泉田洋志であります。が、その様子を見ていた不知火小僧はこの状況を内海に知らせるのでした。なにゆえ自分にそんなことを教えるのかちょっと疑問に思う内海でしたが「早えとこ助けに」とせかされ二人で糸路救出に走ります。
同じころ、一角斎は怪しい侍たちに襲われます。その場に駆けつける内海と不知火小僧でしたが一角斎は倒されてしまうのでした。
そんな寄り道しながらも糸路救出に突入する内海と不知火、大立ち回りのすえ糸路を助け出します。
このシーンの中村竜三郎の「ここはあっしが引き受けた!おめえさんたちは早く!」というj台詞が気持ちよく響きます。
そのまま早馬を飛ばし南部国表へ駆けつける内海は掃部介に八重菊の素性を報告するわけなんだが、どの証拠で?糸路を助けるのに協力してくれたのに不知火小僧を「怪しげな盗賊」なんて言ってるし。
このままでは殿の命が危ない、と掃部介は急ぎ江戸に上ります。だけど、殿は「心配ないから国表に帰ってよい」と掃部介を帰そうとします。ならば、と掃部介は内海幸次郎の勘定方への復職を願い出るわけでしたが、なんでか八重菊もこれを殿にお願いします。内海が来てるってんで舞い上がる八重菊ことお百、深川端の料亭で会いたい旨の手紙を彼に渡してしまうのでした。掃部介と内海は何で?と疑念を持ちますが、復職できたのも八重菊の口添えあってのこと、何かいわくがありそうだってんで内海は八重菊と会うことにします。
待ち合わせの場所に来てみると、八重菊があっさり自分の素性を内海にバラし、ちょこっと昔話に花を咲かせたくらいにして今回の企みの中身まであっさりばらしてしまうのでした。内海も内海で、言われてやっとこさ思い出してるけど。そんなに内海のことが好きだったんならこんな悪だくみに加わるなよなー。
とにかく、「内海さまのいる南部藩という話に心惹かれ、外記さまの口裏にのったあさはかな私。いつのまにやらこんな悪い女になり一大事に関わってしまいました(泣)」なんてあっさり白状したのでこの騒動も一気に終幕にむかうわけであります。
(たぶん)翌日の江戸屋敷、掃部介が外記を詰問しています。例の、内海が糸路から手に入れた短刀の血のりの由来を問うていましたが、外記は当然しらばくれるわけでした。でもそこに内海が不知火と糸路を連れて登場。
「この者たちに覚えがあるはず」と問い詰めます。さらにそこに八重菊ことお百「ほほほほほほほほ」と笑いながら登場、外記のすべての悪事を殿にバラしてしまうのでした。予定調和でここからは開き直った外記一味vs内海と掃部介ら主流派との大立ち回り。
当然のごとく不知火小僧の中村竜三郎は見せ場がいっぱい。持ってるエモノが短ドスだったはずがいつの間にか長ドスになってますが、気にしちゃいけない。糸路も殺陣で大活躍。
内海の明智十三郎の殺陣がやはりここではメインになりますねー。そして、ここまでただいるだけでさっぱり目立つ場がなかった植木主水(村山京二)が大活躍。そんなこんなで予定通りに外記は内海と不知火のツインビーム攻撃により倒されます。死ぬまでけっこう時間がかかります。
それを見届けた八重菊ことお百、その場で自刃しようとしますが不知火と内海とに「早まるでない」止められ、のちに尼僧になってしまうのでした。様子を見に来た内海と糸路を見送るお百の姿で本編は終わります。


とにかく、テンポが早いこと早いこと(笑)そして、小畠絹子さんはやっぱりよその映画会社だったら大成できたろうになぁとしみじみ感じる。よその制作会社に比べてあまり裕福でなかった新東宝なのですが、ことさら現代の目で見ても時代劇にかかってる手間ひまは半端なもんじゃないです。いつもどおり、ジェットコースター展開で運命に翻弄されていると思われる小畠絹子が見られるという安定感がすばらしい作品でした。
でもなぁ、オイラ的には南部騒動だってんで見てみたかったのに物語の主な舞台は江戸の国屋敷。
もっと国表の様子も描いてほしかったです。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

June 24, 2015

バニー・レークは行方不明

以前にイマジカBSで放送してたのを録画しておいて、それを今になってやっとこさ全編通して見ることができました。
もともとは「2001年宇宙の旅」のボウマン船長を演じていたキア・デュリア(本当はキア・デューレイと発音するらしい)が出演していたということを以前に聞いていて、見てみたいとは思っていたけどソフト化もされず見る機会がなかったのだがたまたまイマジカBS見ていたら放映していたので録画しておいたもの。
監督がオットー・プレミンジャーということは後から知った。
彼が監督だと現場の厳しさが並じゃなかったという話で、日本だと鈴木英夫みたいなもんか。

原題:Bunny Lake is Missing
1965年イギリス

ある日のロンドン。
アメリカから引っ越してきたアン・レーク(キャロル・リンレー)は引っ越してきたその最初の日に保育園に娘のバニーを預けた。
ところが、その日の午後に彼女が娘を迎えに来てみると娘のバニーことフェリシア(スーキー・アップルビー)はどこにもいない。保育園の誰に聞いても、そんな子は知らないというばかり。
アンは兄のスティーブン(キア・デュリア)に連絡をとり、警察にも届け出る。
担当のニューハウス警視(ローレンス・オリヴィエ)は早速捜査を開始。
アンによればその日は保育園に預けた初日で、調理担当の女性に預けて「初めての日の部屋」にバニーを連れて行ってもらっていたはずなのにその女性がいない。保育士の先生もバニーを知らない。ニューハウスはアンの言動に疑いを持つ。
とりあえず自宅に戻ったアン。なんだけど怪しげな大家のウィルソン(ノエル・カワード)に言い寄られたりしてテンパり加減はさらに高まる。
そして気づいたのは、自宅からバニーの服もおもちゃも、とにかくバニーの存在を証明するものがすべてなくなっていること。
なぜ?とアンは慄然とする。
一方でニューハウス警視は真面目に捜査を続行。アンのフラットも訪れ現場検証し、スティーブンからアンとバニーが船に乗ってロンドンにやってきたのがいつだったかを聞き、アンにも確認。
ニューハウスの、アンにとってバニーは妄想の産物だったのかという疑問はさらに深まる。
でも憔悴しているアンの様子を見かねたニューハウスは彼女をパブに連れて行き、軽い食事をとらせる。
その場にやってきたスティーブン、ニューハウスにくってかかる。
ニューハウスは「家に帰る」とか言っときながら船会社に行き乗客を確認。スティーブンの記憶をもとに船が着いた日を確かめると、その日にアメリカから着いた船はない。やはりバニーは存在しないのか?
だが、そこでスティーブンの話とアンの記憶とで到着した日が1日異なることに気付く。アンの記憶をたよりに一日前の記録を確認してみると、その日にはアメリカからの到着便があった!

一方でいったんスティーブンの家に戻ったアンはバニーの人形を修理に出していたことを思い出し、えらい気味の悪い人形屋さん(フィンレイ・カリー)のもとへ行くと確かにバニーの人形があった。これでバニーの存在を証明できる!と思ったらなぜかそこに現れたスティーブンに人形を燃やされ、さらに気絶させられたアンは精神病院に入院させられてしまう。
なんとか病院を脱出したアンはロンドンに来てすぐにいた家に向かうと、そこにいたのはスティーブン。彼の車のトランクにバニーは隠されていた。スティーブンはバニーを殺して埋めてしまおうとしていたのだった。
何とかバニーを助け出したアンはスティーブンと対峙することに。
アンとスティーブンは、はっきり言って兄妹の間柄がえらいゆがんでたのですな。
アンのことを独占したかったスティーブンにとってはバニーの存在は邪魔なので、バニーのことをなかったことにしてしまおうとしていたのでありました。アンはそのことを何となーく感じてはいたけど、それがほとんど今回は狂気レベルだということを知ってバニーを何とか守ろうとする。なのでスティーブンと昔のように遊んでひたすらバニーから気をそらし、必死に時間稼ぎをするアン。
そこにニューハウス警視らが到着、スティーブンを取り押さえ事件は解決するのでありました。


でてくるキャラクターが変な人ばっかなんで、少しは主人公もまともなのかと思ったら実は変な人である部分もありというのが面白いところ。
何と言っても一番変なひとだった兄のスティーブンを演じてたキア・デュリアはこの後に出演した「2001年宇宙の旅」のボウマン船長役で多くの人々に記憶されているはず。で、この作品では妹に対してゆがんだ愛情をもち妹を独占しようとする変な人を熱演してるんだけど、そのタッチがえらくさらっとしてるのでかえって変な人っぷりがリアルな感じ。
アンに言い寄る変な大家ウィルソン役のノエル・カワードもこの作品ではけっこうな熱演。「ミニミニ大作戦」のブリッジャー役みたいなのがこの人にはぴったりだとは思うけどな。アンに言い寄ったあと、その場に現れたニューハウスたちに追い出されてしまうけど、そのまま監視についた刑事たちに独演会をするくだりがまた妙な感じ。
妙な独演会といえばもう一人、マーティタ・ハントが演じていた保育園のオーナー、アダ・フォードも変な登場人物。自身の部屋の中で一人芝居をするこのフォードさんというキャラクターを、これまたさらっと演じている。この人、トニー賞も受賞してる実力派だったんだね。
変な人のトリを飾るのは人形屋のフィンレイ・カリー。普通ならこんな人形屋には行きたくないのが普通だと思うよ。人形についてアツく語るこの(「タモリ倶楽部」出てきそうな)キャラクターは強い印象が残る。調べてみたらマーティタ・ハントとフィンレイ・カリーはデヴィッド・リーンの「大いなる遺産」で共演してんのね。
キャロル・リンレーはこれらの役者陣にくらべるとイマイチ押し出しが弱いのは仕方ないか。でも、物語のクライマックスで必死になってキア・デュリアとブランコで遊ぶ姿は何となく応援したくなった。でも、こんな自分の兄のことを変だとは思わないまま大人になってしまったこのアン・レークは天然ボケ的に変な人だぞ。そんなキャラクターを素直に演じてしまったので、いまひとつこのアンが目立たないんだな。でも面白い映画だったということは間違いない。
何とか、せめてDVDにしてくださいな。

あと、蛇足で

劇中登場する保育園でのおやつで、ニューハウス警視が「これ好きなんです」と言っていたのがジャンケットなる食べ物。
調べてみたら、洋風の牛乳豆腐みたいなのらしいですな。どんなものか実際に見てみたい。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

April 16, 2015

のんき裁判

こないだ手に入れて、なんとか見終えた。
新東宝オールスター出演の1955(昭和35年)公開の作品で、とにかくどこに誰が出てるやら(^_^;)
裁判長その1として登場の藤田進、その2の大河内傳次郎、検事の田崎潤に堺駿二、弁護士の笠置シズ子といったあたりはすぐわかるけど、他の俳優さんがわからんぞ。
わかりづらいけど何とかわかったのは、藤田裁判長の娘が久保菜穂子・小林桂樹の裁判の終り頃に立ち上がって声を上げる女性が野上千鶴子・映画撮影中の出張裁判所のくだりで助監督が江川宇礼雄・本人役の俳優で出てんのが阿部九洲男と鳥羽陽之助・スタジオの外で女優とダベってる鳥羽陽之助を呼びに行く若い助監督が天知茂・香川京子はこのへんの女優として出てるかと思ったらラストのフィナーレ部分にちょっと出てた。で、三原葉子はいないみたい。実際、キャストには名前は入っていないし。
森繁久彌の相手役の女優がちょっとわからん

| | Comments (0) | TrackBack (0)

February 03, 2015

あれやこれや

 どうしても映画を見る手段がDVDとかになってしまっているのが情けないけど

ここ数か月で見たものを、思い出せるだけ書き出してみる。

先日、出張先のホテルの部屋でひとり見たのが「徳川女刑罰史 牛裂きの刑」と録画してあった「国際秘密警察 絶体絶命
「牛裂きの刑」は汐路章と川谷拓三の熱演があってこその作品。これがなかったらつまんなくなってたと思う。
「絶体絶命」はいつも通りの三橋達也とえらくスリムなニック・アダムス。奈良ドリームランドの映像が貴重かも。
基本的にはかわいい出来のスパイアクション。

その前に見たのが、「肉体女優殺し 五人の犯罪者」宇津井健の飛躍的な説得と不思議な味のキャラの天知茂がすごい。
「わたし、立派なヌードダンサーになります!」なんてすごい衣装でにこやかに宣言する三ツ矢歌子も素晴らしい。

87年版「ロボコップ」懐かしさが一番だったけど、今にしてみるとすごい痛そうな暴力描写が多いのね。
昔はぜんぜんそんなこと考えなかったけどなぁ。

汚れなき悪戯」これは何年ぶりに見たんだろ。きっちりと作りこんであるのに感心した。

河のほとりで」アーリー60年代の東宝オールスター青春映画。セーラー服姿の桜井浩子さんが新鮮でした。

悪の階段」鈴木英夫監督作。この人のカラーはやっぱ東宝風じゃないなぁ、と思う。すごくよくできてるサスペンス。
西村晃と加東大介の掴み合いが見られるなんて、なんと贅沢なキャスティング。

幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形」小林夕岐子がかわいい。そして、母親役の南風洋子のうさんくささがいい。

恐怖のカービン銃」天知茂の初主演作。まだ新東宝では芽が出てなかった三原葉子が若い若い。すごいリアルな再現映像であります。

燃えつきた地図」勝新太郎と渥美清の共演ってだけでも(゜o゜)二人で仲良く乗るスバル360がステキ。

きちんと後日レビュー書きたいです

| | Comments (0) | TrackBack (0)

より以前の記事一覧