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June 28, 2017

その場所に女ありて

 もともとこの感想はかれこれ3年前に手を付けておいてそのまま忘れていたもんだったので、せっかくだからと書き直してみたのだがさすがに忘れていることが多くて、改めて本編を見直してみた。

 東宝のサラリーマン映画といえば、まず間違いなく喜劇なはずなんだけど「その場所に女ありて」は、はっきり言って東宝映画らしさもないという感じの、ちょっと異色の作品であった。
もともとタイトルだけ聞いたらえらいしっとりした中身の映画を想像してたんだけど。
いきなりサラリーマン映画だったんだもん。

っていうか、もともとBSで放送するということから録画してあとから見たわけなんだがものを知らない小生は鈴木英夫という監督を当時は知らず、当初これはいつもの東宝風のものなんじゃないかと思い込んでいたので気楽に録画して見てみたのですが見たら鈴木英夫というひとの才能がものすごく感じられる、佳作だったのが驚きだった。当時の東宝という会社は懐が深かったのだな。懐の深さついでにぜひソフト化してほしい作品です。

その場所に女ありて(1962)
監督 鈴木英夫
脚本 升田商二・鈴木英夫

矢田律子(司葉子)は西銀広告社の営業担当。出社の途上でデザイナーの倉井達也(山崎努)と出くわし、今回二人で担当しているスカル目薬の原稿が本日の正午提出ってんでざっくばらんにこの件を話し合いながら出社。
オフィスでは古株タイピストの田島祐子(大塚道子)が後輩男性社員をどやしつけながらタイプ打ちの真っ最中。この会社は基本年功序列で性格のきつい女子を採用するらしい。皆からは「幹事長」と呼ばれてます。
律子の隣の席にいるのは藤井久江(原知佐子)男性社員相手に月利3%の金貸し業をやってるようで、今日は給料日なんで金利だけでもと取り立ての作戦を立てている。
彼女らの妹分としてかわいがられてるのがコマンチこと吉村ミツ子(水野久美)彼女の付き合っている相手は何か病気の治療中らしく彼女が面倒を見ているのだが、そのことを祐子からはバカだと言われているけどこれは祐子が彼女のことを心配してるから。
制作室ではチーフデザイナーの坪内(浜村純)から倉井がダメ出しされている。
「モデルに対する君の仕事以外の感情がこの仕事を甘くしている」だって。
そこに出社してくるのがフェロモンいっぱいの須川有子(北あけみ)いろいろと交友関係が広いみたいだけど、倉井は彼女にもコナかけてる様子。
今日は課内の会議。水沢部長(西村晃)とか塚本(伊藤久哉)、乾(織田政雄)とかから議題として語られたのは接待費と受注額のバランスがいまいちよくないので接待費の生きた使い方をしてほしいなどということ。
会議が終わったところに難波製薬から律子に電話がかかってくる。新薬の発表をするというご案内の連絡だったんだが、それならかなりの広告予算を割くだろうということで急きょ水沢部長じきじきにチームを編成、部長の指示でこの日に提出するスカル製薬の目薬の広告原稿を持っていくついでに難波製薬の予算にも探りを入れることに。
律子が出かけようとしたところに律子の姉・佐川実代(森光子)からの呼び出しがあり、彼女は近くの喫茶店に行きました。実代の年下の夫・佐川道男(児玉清)はほとんどプー太郎なので、実代は律子に金の無心に来たのであった。道男のことをこき下ろす律子に実代はカチンとくるけど結局は金を借りることに。外で待っている児玉清が若いこと若いこと。最近の役者で誰か似てるような気がする。
車に乗って律子は久江と一緒に出かけるのだが、車中で律子は男に入れあげる姉のことを最低と言うけど、それに応えて久江は「女に入れあげる男も最低。あたしはそれで別れたんだから」なんて会話をしてるんで、久江はバツイチだということが判明。「小じわが出てきた」という久江でしたがえらくそのことを気にしているみたい。
スカル薬品に提出した広告は宣伝部長だか課長(丘寵児)からは不評でどうもやり直しになりそう。律子は会社に戻る途中で難波製薬に顔を出してこちらの宣伝課長(石田茂樹)から宣伝予算を聞き出そうとするのだが、そこにはライバル会社の大通広告社の坂井(宝田明)が先に刺さっていたのであった。
終業後に律子は雀荘で同僚のみなさんと麻雀を打っているところになぜかまた坂井登場。本筋には特に関わらんくだりですが個人的には好きなくだり。
一人自宅のアパートに戻った律子、しんみり一人でウィスキーなんぞちびちびやってるとそこに久江がやってくる。別れた夫に会ってきたそうで、飲んで食事した帰り道。その別れた夫の優しさを語る久江は最後には泣き出してしまうわけで、それを見た律子は「ダメねあんたって。情けなくなってくるわ」などとつぶやくのでした。

スカル目薬の広告は作り直し。すごい服着たモデル(清水えみ)がやってきて倉井と軽口など交わすんだが、やっぱこの二人はデキているのかも、と視線を送る北あけみ。
同じころ、湯沸し室でコマンチは祐子に借金を頼んでいた。
「(男の)入院代と部屋代で給料が飛んでしまったんです。十日以内に返します。お願いします」
しかし乱暴ながらもコマンチの身を気遣う祐子はその申し出を断り、男と別れるよう説教。
「お前を一度は捨てて逃げた男だ。病気でどうにもならなくなって舞い戻ってきた。女をなめてる。そんな奴かまうな!」
その通りなのはわかってるのに苦悩し涙するコマンチ。その様子を見て、祐子は彼女の男が死んだのかと思い込みます。

難波製薬の会議室では宣伝部長(松本染升)から新薬の広告について発表がなされ、いわゆるコンペでどこに任せるかは決めるということになりました。
その部長に呼び出された律子、何の話かと思ったら縁談。見合いだけでも、という部長にやっぱり新薬の広告予算を聞き出そうとするんだな。その足でスカル薬品に顔を出してみたらなぜか倉井がモデルの子と一緒に宣伝課長と打ち合わせ中。倉井は能力はともかく世渡りはうまいタイプなんだな。担当なのにないがしろにされた律子は当然カチンと来て、帰りの車中で倉井に文句を並べる。
一方の大通広告社、坂井は上司の保田(稲葉義男)と今回の難波製薬の対応を打ち合わせ。自前のデザイナーが手一杯で仕方なく外注にすることを決定。できるなら大物を使いたいという保田。
一方の西銀広告は水沢部長のもと律子と坪内が方針を検討していた。斬新な方向性でいこうという坪内に対し水沢部長はオーソドックス路線を主張。律子も坪内に同調するんだけど結局は部長の主張どおりに方針決定。不満げな坪内にちょっと心配な乾。

律子は坂井から呼び出されて飲みに行きます。その場でいろいろ情報交換してそこでも坪内さんの名前が出てくるんだな。で、律子が早々に帰った後、まだ会社で仕事中の坪内さんに坂井は電話していた。ここでバーの女(宮田芳子)と坂井との会話から坂井のちょっと情の薄い人間性がわかります。
律子は実代のところに行って父親の十七回忌の話などしていた。律子は出られないから、とお金を預けて道男の帰宅したタイミングで帰宅。しかし、麻雀で負けた金の支払いに律子の置いて行った金を使おうとする道男、だめなやっちゃ。児玉清のいろいろダメな芝居が見どころ。
帰宅する律子を駅で待っていたのは倉井。スカル目薬のコピーを考えよう、ということで律子の部屋で二人で検討会。女の魅力は男がつくるもんだろ、とか言って倉井は律子を押し倒すんだけど失敗。翌日の制作室で有子にそのてんまつを語った倉井、「あの女ちっとも興奮しねえんだ」とか毒づいて有子といちゃついてます。二股かけてやがる。
会社の屋上では祐子と律子が語り合っております。最近なんかイキイキしてる、という祐子に律子は何かいいことあってもいいじゃない、などと語りつつ自分のキャリアを振り返るのだった。7年いつも追いかけられるように働いて気がつけばもう27などと語っていると乾が来て、律子の縁談をなんとか今回の仕事が終わるまで引っ張ってほしいとのリクエスト。
一方の坂井、坪内を取り込もうと接待攻勢。結果は成功。律子も難波製薬の宣伝課長をご接待。このあとはおさすりバーに出動だ!などと塚本=伊藤久哉と盛り上がって、塚本がトイレに席を立ったらおさわりでセクハラ開始される始末。

コマンチが会社の金を使い込んでしまい、もし次があったらその時はクビだと乾に告げられる。コマンチになんでそんなに冷たく当たるんだという律子は祐子と口論、それを仲裁する久江。祐子がコマンチを問い詰めると、男はどうも死んでしまったらしい。
難波製薬チームの打ち合わせに坪内は歯痛で遅れるとの連絡でしたが、実はそのころ大通広告社では坪内が現金攻勢の坂井とこそっと打ち合わせしていたのでした。
難波の宣伝課長を訪問した律子はなんだかえらいキメてきてる。坂井が先回りして課長と話し込んでるけどそのまま課長も交えて麻雀だ!ということで塚本も参加して麻雀大会。でもその場で坂井に坪内から電話が。いぶかしげな律子。麻雀のあと律子は坂井とあまり流行ってなさそうなバーでサシで飲んでます。坂井の人間性を皮肉る律子だが、逆に坂井に「君も職業病に毒されてる。君は女として女の感情に燃えたことが一度でもあるのかい?」とツッコまれ悪酔いしてしまう。具合を心配する坂井に惚れてる律子は、「あなたがいるから余計に苦しい」などと本音を吐いてしまいます。坂井は律子をお茶の水あたりのホテルに連れていき、「ぼくの気持ちはもう決まってるんだ」などと告げ一夜をともにしてしまうのであった。

コマンチはここしばらく出社していない。
倉井がスカル目薬の広告で日新賞を受賞する。なんか広告関係のすごい賞らしい。
律子の考えたコピーをそのまま使ってるくせして倉井は全部自分の仕事とマスコミに伝えたようで、他の課員は不平たらたら。倉井は鼻高々。難波製薬の広告は大通と西銀の企画がまず通ったとの報せをうけ、さっそく西銀は製作開始。一方の大通のほうも坪内のプランで製作開始。坪内さん忙しすぎだろ。
そして納品の日。律子は難波製薬で坂井とご対面。広告は難波製薬の宣伝部長らが選定して、大通の原稿を見た律子はそれが坪内の手によるものと知る。帰り道、「ぼくの君に対する気持ちだけは信じてほしい」と坂井は律子に告げるけど
「相手方のディレクターを抱き込むなんてやり方が汚いじゃないの!私はもうあなたにはついていけない。自分がみじめすぎるわ。でも私は生きていかなくちゃならないのよ!働かなくちゃならないのよ!」
と答え一人去っていく。

会社に戻った律子は坪内をとっちめます。坪内さんは
「俺も歳だ。(中略)今の俺は買い手があるときに売るよりほかないんだ。…辞表を出すよ」とさびしく答える。
でも律子はその辞表を「私が次の仕事まで預かっておく。あなたにひとつ貸しができたわよ」
コマンチが飛び込み自殺した。彼女の男は病から回復したとたん彼女を捨てて逃げて行ってしまったのだ。男は死んだのではなかった。
久江いわく「男のために身動きできないくらい借金していたみたい」
祐子は「あいつは上野の博物館でも通用する珍品でしたよ」などと泣き笑いしてまとめちまうけど、珍品はコマンチだけではない、と律子。
「男って、どうして自分を作るためにしか女を必要としないのかしら…何か忘れてるわ」
とつぶやきます。

坂井は保田からレストランで今回の難波の件で労をねぎらわれていた。
一方の律子は西銀のアイディアが大通に筒抜けだったことで詰問されていた。そりゃそうだが無関係だと強く弁明する律子に、水沢部長は「今後も頼むよ」と何かすきっとしない雰囲気でねぎらう。縁談は断るように乾に頼む律子、「君は一生結婚しないつもりかい?」と問われて「自分で納得したら、結婚したいと思います」と答える。
倉井は調子に乗って西銀を退職。えらいでかい封筒の辞表を出して、水沢部長も「放っておけ」当たり前だけど誰も彼をよく言わないんだね。そんな律子を道男が訪ねてくる。実代から無心を頼む手紙を持ってきたんだが、その手紙を律子は破り捨ててしまう。児玉清のお芝居が下手すぎてステキです。
道男を帰した律子を倉井が待っていて、「アルバイトしない?キャッチフレーズだけやってくれりゃいいんだ」などと誘うんだけど、次の職場では彼は高給でスカウトされたんでやっかまれてしまい、同僚は誰も手伝ってくれないので困っているとの話。でも律子は倉井の顔を張って立ち去る。
あいつ(倉井)はどうせ大したことできない、なんて祐子の台詞を聞きながら帰宅しようとしていると乾から次の仕事の話が持ち込まれ、ちょっと明るい雰囲気。律子は久江と祐子とで飲みに行こう!と盛り上がったところに坂井から電話。弁解めいたセリフのあと
「もう一度会ってもらえないか」なんて言われるけど
「街でばったり会ったらまたお酒でも飲みましょう。笑い話にしてもいいわ。じゃ、さよなら。お元気で」
と律子は電話を切る。
夕暮れの街に出ていく三人の姿を追って映画は終わるのでした。


見てると「こんな奴いねーよ!」とツッコミたくなるキャラが(例:大塚道子のキャラ)連発で登場するのが第一印象。でも、この当時はまだ働く女性ってのは腰掛け的に会社にいたりする場合が多かったわけで、ここでの律子はじめとする女性たちが仕事にしがみついている姿はたぶん同時代的には変な感じだったろうなと思う。自分的にも、この人は何でここまで仕事にこだわるんだろうか?と考えてしまう。そう感じてしまうのは、自分も古いジェンダー観にとらわれているんかしら。劇中の律子ほかメインキャラが「どうして男はどう、女はこう」と語る言葉がこの映画で言いたかったことなのだろうなー。古いタイプの女性観を表現するキャラとして、まず若い水野久美演じるコマンチ(なんでこの愛称なのかは語られないけど)が置かれているのがちょっと面白い。それをダメ押しするのが森光子演じる実代というキャラクター。昔風の女性を森光子がやるのは判るけど、でもこの人が演じるとここまでだめんず押しの女でもこんな後ろ暗いのでなく、もっと前向きに明るい女性のような気もするんだがな。そんなわけでこの作品のキャスティングは意外な感じが強い。宝田明演じる坂井も、この人がやってるから微妙にさわやかになってるけど、まぁこれはこれでいいか。でも、だいたいあそこまでずるいやり方で仕事をとってきてるんだからそりゃ嫌われると思うが、なんか宝田明でやるとこの人物がものすごーい無邪気にひどい裏ワザ使ってるみたいで、そのくせもう一度会いたいなんて甘ったれたことを言ってるんだから周囲からするとこういう人物もあまり付き合いたくないかも。面倒見てる上司も稲葉義男だけだもん。この人が背広姿でなんかやってるとどうしても「ザ・ガードマン」になってしまうのは自分だけだろう。
まあ会社ってのはみんなの御奉公で成り立ってるんだからねぇ。とはいえそこでの仕事だけに人生の意義を感じるのも長い目で見れば危険ではある。そんな男性も多いし。律子もいずれは仕事だけで人生が終わってしまう人間になってしまうのかもしれない、という示唆もある、かな?これはいま思いついたけど。
でも見てるとやっぱり時代を感じるなぁ。オフィスでは喫煙おかまいなしだし、当時は軽いたばこなんてないのにそれでもみんなスパスパやってんだものな。出かけるのも運転手つきの社用車だし、みんな麻雀打ってるし。
今はどっこも禁煙。運転手さんつきの社用車なんて取締役社長でもないと使えないし、麻雀なんて若い人はぜんぜんやらない。
東宝だけにサラリーマンの描写は上手。出演者もそれに慣れてるし。伊藤久哉の出番が多いのが珍しいかも。石田茂樹もそう。典型的な中間管理職を上手に演じています。のちにウルトラマンの中の人になる古谷敏もちょこっと出演。
児玉清の芝居については、まぁねぇ(笑)三橋達也のダメ男キャラと違ってリアルすぎて笑えん。監督からしごかれただろうに、それでもこれかい!と言ってしまうと身もフタもないが。
監督の鈴木英夫は役者に厳しかったことで有名だけど、そのせいかえらいピリピリした雰囲気の作品を作ってた。サスペンスものには向いているひとで、後で見た「悪の階段」なんてのもあまり東宝らしくない佳作だと思う。ご本人はあまり気に入ってなかったみたいだが。このひとのカラー、大映ならわかる。佐原健二とか佐藤允がどえらくこきおろされたのは有名らしい。児玉清も自伝に悪口書いていたし。なんかの本人のインタビューでも、宝田明を「大根」と語ってたし。そのくせ女優にはどうも甘かったみたいだけどねぇ。女優は悪口言ってないみたいだもん。
チョイ役のバーの女の宮田芳子とか金貸しの件で原知佐子がとっちめようとする同僚のメガネの女社員(柳川慶子)とか、えらいキャラが立ってて出番が少ないのがもったいない気もする。クレジットも上の方だし。そういう意味では女優を使うのがうまい監督だったということになるのかも。
なにはともあれ、きちんとした佳作でありました。

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