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June 28, 2017

その場所に女ありて

 もともとこの感想はかれこれ3年前に手を付けておいてそのまま忘れていたもんだったので、せっかくだからと書き直してみたのだがさすがに忘れていることが多くて、改めて本編を見直してみた。

 東宝のサラリーマン映画といえば、まず間違いなく喜劇なはずなんだけど「その場所に女ありて」は、はっきり言って東宝映画らしさもないという感じの、ちょっと異色の作品であった。
もともとタイトルだけ聞いたらえらいしっとりした中身の映画を想像してたんだけど。
いきなりサラリーマン映画だったんだもん。

っていうか、もともとBSで放送するということから録画してあとから見たわけなんだがものを知らない小生は鈴木英夫という監督を当時は知らず、当初これはいつもの東宝風のものなんじゃないかと思い込んでいたので気楽に録画して見てみたのですが見たら鈴木英夫というひとの才能がものすごく感じられる、佳作だったのが驚きだった。当時の東宝という会社は懐が深かったのだな。懐の深さついでにぜひソフト化してほしい作品です。

その場所に女ありて(1962)
監督 鈴木英夫
脚本 升田商二・鈴木英夫

矢田律子(司葉子)は西銀広告社の営業担当。出社の途上でデザイナーの倉井達也(山崎努)と出くわし、今回二人で担当しているスカル目薬の原稿が本日の正午提出ってんでざっくばらんにこの件を話し合いながら出社。
オフィスでは古株タイピストの田島祐子(大塚道子)が後輩男性社員をどやしつけながらタイプ打ちの真っ最中。この会社は基本年功序列で性格のきつい女子を採用するらしい。皆からは「幹事長」と呼ばれてます。
律子の隣の席にいるのは藤井久江(原知佐子)男性社員相手に月利3%の金貸し業をやってるようで、今日は給料日なんで金利だけでもと取り立ての作戦を立てている。
彼女らの妹分としてかわいがられてるのがコマンチこと吉村ミツ子(水野久美)彼女の付き合っている相手は何か病気の治療中らしく彼女が面倒を見ているのだが、そのことを祐子からはバカだと言われているけどこれは祐子が彼女のことを心配してるから。
制作室ではチーフデザイナーの坪内(浜村純)から倉井がダメ出しされている。
「モデルに対する君の仕事以外の感情がこの仕事を甘くしている」だって。
そこに出社してくるのがフェロモンいっぱいの須川有子(北あけみ)いろいろと交友関係が広いみたいだけど、倉井は彼女にもコナかけてる様子。
今日は課内の会議。水沢部長(西村晃)とか塚本(伊藤久哉)、乾(織田政雄)とかから議題として語られたのは接待費と受注額のバランスがいまいちよくないので接待費の生きた使い方をしてほしいなどということ。
会議が終わったところに難波製薬から律子に電話がかかってくる。新薬の発表をするというご案内の連絡だったんだが、それならかなりの広告予算を割くだろうということで急きょ水沢部長じきじきにチームを編成、部長の指示でこの日に提出するスカル製薬の目薬の広告原稿を持っていくついでに難波製薬の予算にも探りを入れることに。
律子が出かけようとしたところに律子の姉・佐川実代(森光子)からの呼び出しがあり、彼女は近くの喫茶店に行きました。実代の年下の夫・佐川道男(児玉清)はほとんどプー太郎なので、実代は律子に金の無心に来たのであった。道男のことをこき下ろす律子に実代はカチンとくるけど結局は金を借りることに。外で待っている児玉清が若いこと若いこと。最近の役者で誰か似てるような気がする。
車に乗って律子は久江と一緒に出かけるのだが、車中で律子は男に入れあげる姉のことを最低と言うけど、それに応えて久江は「女に入れあげる男も最低。あたしはそれで別れたんだから」なんて会話をしてるんで、久江はバツイチだということが判明。「小じわが出てきた」という久江でしたがえらくそのことを気にしているみたい。
スカル薬品に提出した広告は宣伝部長だか課長(丘寵児)からは不評でどうもやり直しになりそう。律子は会社に戻る途中で難波製薬に顔を出してこちらの宣伝課長(石田茂樹)から宣伝予算を聞き出そうとするのだが、そこにはライバル会社の大通広告社の坂井(宝田明)が先に刺さっていたのであった。
終業後に律子は雀荘で同僚のみなさんと麻雀を打っているところになぜかまた坂井登場。本筋には特に関わらんくだりですが個人的には好きなくだり。
一人自宅のアパートに戻った律子、しんみり一人でウィスキーなんぞちびちびやってるとそこに久江がやってくる。別れた夫に会ってきたそうで、飲んで食事した帰り道。その別れた夫の優しさを語る久江は最後には泣き出してしまうわけで、それを見た律子は「ダメねあんたって。情けなくなってくるわ」などとつぶやくのでした。

スカル目薬の広告は作り直し。すごい服着たモデル(清水えみ)がやってきて倉井と軽口など交わすんだが、やっぱこの二人はデキているのかも、と視線を送る北あけみ。
同じころ、湯沸し室でコマンチは祐子に借金を頼んでいた。
「(男の)入院代と部屋代で給料が飛んでしまったんです。十日以内に返します。お願いします」
しかし乱暴ながらもコマンチの身を気遣う祐子はその申し出を断り、男と別れるよう説教。
「お前を一度は捨てて逃げた男だ。病気でどうにもならなくなって舞い戻ってきた。女をなめてる。そんな奴かまうな!」
その通りなのはわかってるのに苦悩し涙するコマンチ。その様子を見て、祐子は彼女の男が死んだのかと思い込みます。

難波製薬の会議室では宣伝部長(松本染升)から新薬の広告について発表がなされ、いわゆるコンペでどこに任せるかは決めるということになりました。
その部長に呼び出された律子、何の話かと思ったら縁談。見合いだけでも、という部長にやっぱり新薬の広告予算を聞き出そうとするんだな。その足でスカル薬品に顔を出してみたらなぜか倉井がモデルの子と一緒に宣伝課長と打ち合わせ中。倉井は能力はともかく世渡りはうまいタイプなんだな。担当なのにないがしろにされた律子は当然カチンと来て、帰りの車中で倉井に文句を並べる。
一方の大通広告社、坂井は上司の保田(稲葉義男)と今回の難波製薬の対応を打ち合わせ。自前のデザイナーが手一杯で仕方なく外注にすることを決定。できるなら大物を使いたいという保田。
一方の西銀広告は水沢部長のもと律子と坪内が方針を検討していた。斬新な方向性でいこうという坪内に対し水沢部長はオーソドックス路線を主張。律子も坪内に同調するんだけど結局は部長の主張どおりに方針決定。不満げな坪内にちょっと心配な乾。

律子は坂井から呼び出されて飲みに行きます。その場でいろいろ情報交換してそこでも坪内さんの名前が出てくるんだな。で、律子が早々に帰った後、まだ会社で仕事中の坪内さんに坂井は電話していた。ここでバーの女(宮田芳子)と坂井との会話から坂井のちょっと情の薄い人間性がわかります。
律子は実代のところに行って父親の十七回忌の話などしていた。律子は出られないから、とお金を預けて道男の帰宅したタイミングで帰宅。しかし、麻雀で負けた金の支払いに律子の置いて行った金を使おうとする道男、だめなやっちゃ。児玉清のいろいろダメな芝居が見どころ。
帰宅する律子を駅で待っていたのは倉井。スカル目薬のコピーを考えよう、ということで律子の部屋で二人で検討会。女の魅力は男がつくるもんだろ、とか言って倉井は律子を押し倒すんだけど失敗。翌日の制作室で有子にそのてんまつを語った倉井、「あの女ちっとも興奮しねえんだ」とか毒づいて有子といちゃついてます。二股かけてやがる。
会社の屋上では祐子と律子が語り合っております。最近なんかイキイキしてる、という祐子に律子は何かいいことあってもいいじゃない、などと語りつつ自分のキャリアを振り返るのだった。7年いつも追いかけられるように働いて気がつけばもう27などと語っていると乾が来て、律子の縁談をなんとか今回の仕事が終わるまで引っ張ってほしいとのリクエスト。
一方の坂井、坪内を取り込もうと接待攻勢。結果は成功。律子も難波製薬の宣伝課長をご接待。このあとはおさすりバーに出動だ!などと塚本=伊藤久哉と盛り上がって、塚本がトイレに席を立ったらおさわりでセクハラ開始される始末。

コマンチが会社の金を使い込んでしまい、もし次があったらその時はクビだと乾に告げられる。コマンチになんでそんなに冷たく当たるんだという律子は祐子と口論、それを仲裁する久江。祐子がコマンチを問い詰めると、男はどうも死んでしまったらしい。
難波製薬チームの打ち合わせに坪内は歯痛で遅れるとの連絡でしたが、実はそのころ大通広告社では坪内が現金攻勢の坂井とこそっと打ち合わせしていたのでした。
難波の宣伝課長を訪問した律子はなんだかえらいキメてきてる。坂井が先回りして課長と話し込んでるけどそのまま課長も交えて麻雀だ!ということで塚本も参加して麻雀大会。でもその場で坂井に坪内から電話が。いぶかしげな律子。麻雀のあと律子は坂井とあまり流行ってなさそうなバーでサシで飲んでます。坂井の人間性を皮肉る律子だが、逆に坂井に「君も職業病に毒されてる。君は女として女の感情に燃えたことが一度でもあるのかい?」とツッコまれ悪酔いしてしまう。具合を心配する坂井に惚れてる律子は、「あなたがいるから余計に苦しい」などと本音を吐いてしまいます。坂井は律子をお茶の水あたりのホテルに連れていき、「ぼくの気持ちはもう決まってるんだ」などと告げ一夜をともにしてしまうのであった。

コマンチはここしばらく出社していない。
倉井がスカル目薬の広告で日新賞を受賞する。なんか広告関係のすごい賞らしい。
律子の考えたコピーをそのまま使ってるくせして倉井は全部自分の仕事とマスコミに伝えたようで、他の課員は不平たらたら。倉井は鼻高々。難波製薬の広告は大通と西銀の企画がまず通ったとの報せをうけ、さっそく西銀は製作開始。一方の大通のほうも坪内のプランで製作開始。坪内さん忙しすぎだろ。
そして納品の日。律子は難波製薬で坂井とご対面。広告は難波製薬の宣伝部長らが選定して、大通の原稿を見た律子はそれが坪内の手によるものと知る。帰り道、「ぼくの君に対する気持ちだけは信じてほしい」と坂井は律子に告げるけど
「相手方のディレクターを抱き込むなんてやり方が汚いじゃないの!私はもうあなたにはついていけない。自分がみじめすぎるわ。でも私は生きていかなくちゃならないのよ!働かなくちゃならないのよ!」
と答え一人去っていく。

会社に戻った律子は坪内をとっちめます。坪内さんは
「俺も歳だ。(中略)今の俺は買い手があるときに売るよりほかないんだ。…辞表を出すよ」とさびしく答える。
でも律子はその辞表を「私が次の仕事まで預かっておく。あなたにひとつ貸しができたわよ」
コマンチが飛び込み自殺した。彼女の男は病から回復したとたん彼女を捨てて逃げて行ってしまったのだ。男は死んだのではなかった。
久江いわく「男のために身動きできないくらい借金していたみたい」
祐子は「あいつは上野の博物館でも通用する珍品でしたよ」などと泣き笑いしてまとめちまうけど、珍品はコマンチだけではない、と律子。
「男って、どうして自分を作るためにしか女を必要としないのかしら…何か忘れてるわ」
とつぶやきます。

坂井は保田からレストランで今回の難波の件で労をねぎらわれていた。
一方の律子は西銀のアイディアが大通に筒抜けだったことで詰問されていた。そりゃそうだが無関係だと強く弁明する律子に、水沢部長は「今後も頼むよ」と何かすきっとしない雰囲気でねぎらう。縁談は断るように乾に頼む律子、「君は一生結婚しないつもりかい?」と問われて「自分で納得したら、結婚したいと思います」と答える。
倉井は調子に乗って西銀を退職。えらいでかい封筒の辞表を出して、水沢部長も「放っておけ」当たり前だけど誰も彼をよく言わないんだね。そんな律子を道男が訪ねてくる。実代から無心を頼む手紙を持ってきたんだが、その手紙を律子は破り捨ててしまう。児玉清のお芝居が下手すぎてステキです。
道男を帰した律子を倉井が待っていて、「アルバイトしない?キャッチフレーズだけやってくれりゃいいんだ」などと誘うんだけど、次の職場では彼は高給でスカウトされたんでやっかまれてしまい、同僚は誰も手伝ってくれないので困っているとの話。でも律子は倉井の顔を張って立ち去る。
あいつ(倉井)はどうせ大したことできない、なんて祐子の台詞を聞きながら帰宅しようとしていると乾から次の仕事の話が持ち込まれ、ちょっと明るい雰囲気。律子は久江と祐子とで飲みに行こう!と盛り上がったところに坂井から電話。弁解めいたセリフのあと
「もう一度会ってもらえないか」なんて言われるけど
「街でばったり会ったらまたお酒でも飲みましょう。笑い話にしてもいいわ。じゃ、さよなら。お元気で」
と律子は電話を切る。
夕暮れの街に出ていく三人の姿を追って映画は終わるのでした。


見てると「こんな奴いねーよ!」とツッコミたくなるキャラが(例:大塚道子のキャラ)連発で登場するのが第一印象。でも、この当時はまだ働く女性ってのは腰掛け的に会社にいたりする場合が多かったわけで、ここでの律子はじめとする女性たちが仕事にしがみついている姿はたぶん同時代的には変な感じだったろうなと思う。自分的にも、この人は何でここまで仕事にこだわるんだろうか?と考えてしまう。そう感じてしまうのは、自分も古いジェンダー観にとらわれているんかしら。劇中の律子ほかメインキャラが「どうして男はどう、女はこう」と語る言葉がこの映画で言いたかったことなのだろうなー。古いタイプの女性観を表現するキャラとして、まず若い水野久美演じるコマンチ(なんでこの愛称なのかは語られないけど)が置かれているのがちょっと面白い。それをダメ押しするのが森光子演じる実代というキャラクター。昔風の女性を森光子がやるのは判るけど、でもこの人が演じるとここまでだめんず押しの女でもこんな後ろ暗いのでなく、もっと前向きに明るい女性のような気もするんだがな。そんなわけでこの作品のキャスティングは意外な感じが強い。宝田明演じる坂井も、この人がやってるから微妙にさわやかになってるけど、まぁこれはこれでいいか。でも、だいたいあそこまでずるいやり方で仕事をとってきてるんだからそりゃ嫌われると思うが、なんか宝田明でやるとこの人物がものすごーい無邪気にひどい裏ワザ使ってるみたいで、そのくせもう一度会いたいなんて甘ったれたことを言ってるんだから周囲からするとこういう人物もあまり付き合いたくないかも。面倒見てる上司も稲葉義男だけだもん。この人が背広姿でなんかやってるとどうしても「ザ・ガードマン」になってしまうのは自分だけだろう。
まあ会社ってのはみんなの御奉公で成り立ってるんだからねぇ。とはいえそこでの仕事だけに人生の意義を感じるのも長い目で見れば危険ではある。そんな男性も多いし。律子もいずれは仕事だけで人生が終わってしまう人間になってしまうのかもしれない、という示唆もある、かな?これはいま思いついたけど。
でも見てるとやっぱり時代を感じるなぁ。オフィスでは喫煙おかまいなしだし、当時は軽いたばこなんてないのにそれでもみんなスパスパやってんだものな。出かけるのも運転手つきの社用車だし、みんな麻雀打ってるし。
今はどっこも禁煙。運転手さんつきの社用車なんて取締役社長でもないと使えないし、麻雀なんて若い人はぜんぜんやらない。
東宝だけにサラリーマンの描写は上手。出演者もそれに慣れてるし。伊藤久哉の出番が多いのが珍しいかも。石田茂樹もそう。典型的な中間管理職を上手に演じています。のちにウルトラマンの中の人になる古谷敏もちょこっと出演。
児玉清の芝居については、まぁねぇ(笑)三橋達也のダメ男キャラと違ってリアルすぎて笑えん。監督からしごかれただろうに、それでもこれかい!と言ってしまうと身もフタもないが。
監督の鈴木英夫は役者に厳しかったことで有名だけど、そのせいかえらいピリピリした雰囲気の作品を作ってた。サスペンスものには向いているひとで、後で見た「悪の階段」なんてのもあまり東宝らしくない佳作だと思う。ご本人はあまり気に入ってなかったみたいだが。このひとのカラー、大映ならわかる。佐原健二とか佐藤允がどえらくこきおろされたのは有名らしい。児玉清も自伝に悪口書いていたし。なんかの本人のインタビューでも、宝田明を「大根」と語ってたし。そのくせ女優にはどうも甘かったみたいだけどねぇ。女優は悪口言ってないみたいだもん。
チョイ役のバーの女の宮田芳子とか金貸しの件で原知佐子がとっちめようとする同僚のメガネの女社員(柳川慶子)とか、えらいキャラが立ってて出番が少ないのがもったいない気もする。クレジットも上の方だし。そういう意味では女優を使うのがうまい監督だったということになるのかも。
なにはともあれ、きちんとした佳作でありました。

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June 24, 2017

こころがゆれる

ここにきていろいろと入手したいDVDソフトがいろいろと(-_-;)
「毛の生えた拳銃」とか「裏切りの季節」とか、岡本喜八の「肉弾」に「近頃なぜかチャールストン」といったところ。
大和屋竺ものだと「愛欲の罠」なんてのもあったというのを今知った。…手に入れづらいなこれ。

いろいろと努力が必要な状況ではある。

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June 23, 2017

備忘録として

とりあえず見ているもの
「歌麿~夢と知りせば」と「プーサン」、「狼は天使の匂い」かな?
最近記憶力が悪くなってなぁ…

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June 22, 2017

国際諜報局(レビュー)

せっかく高い金出して買ったソフトなので、グチだけ書いておいても仕方ないからちゃんとレビューもしておこう、うん。
いつのまにやらこんなことになってしまっていたのは少し悲しいけど。でもこれは本編ディスクのみで、2枚組じゃないし、うん(T_T)

でも、今にして思うとなんでこれを見たいとすんごく思っていたのか、思い出せない。ソフトの存在を知ってからもうだいぶ時間が経ってしまってるもんなぁ。ま、もともと昔の007シリーズが好きだったからたぶんそのスピンオフ的な作品なんだろうなと想像していたからに違いない。でも、007シリーズの共同プロデューサーだったハリー・サルツマンとアルバート・R・ブロッコリの間にはこの作品あたりから温度差が出てきてるんだろうなということはよく判った。比較的シリアス路線でいきたかったサルツマンと娯楽路線を進めたかったブロッコリ。のちにその流れの中で「女王陛下の007」が制作されることになり、これがいまいちヒットしなかったことで007シリーズはブロッコリが制作の主導権を握ることになってしまった。
007シリーズのアンチテーゼ的な作品なのに、肝心の007シリーズのプロデューサーがこれを気に入って制作したうえにこれが高評価という、なんだか皮肉な成り立ちだけど実際に見てみたら確かにかっちりした良い感じの作品でした。

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国際諜報局 The Ipcress File(1965)
原作 レン・デイトン
監督 シドニー・J・フューリー
制作 ハリー・サルツマン
制作総指揮 チャールズ・D・カッシャー
音楽 ジョン・バリー
美術 ケン・アダム

例によって以下は思い切りネタバレ

朝のロンドン。駅から列車に乗ろうとしたラドクリフ博士(オーブリー・リチャーズ)が誘拐され、護衛についていた情報局員が殺された。
陸軍軍曹のハリー・パーマー(マイケル・ケイン)は監視対象の張り込み任務の交代で出勤したところロス大佐(ガイ・ドールマン)に呼び出され、ドルビー少佐(ナイジェル・グリーン)のチームへの異動を命じられる。
ロス大佐に連れて行かれた場所は「ドルビー職業紹介所」なるところ。まずロス大佐がドルビー少佐に状況を確認した会話によれば、この2年の間に126人の政府の研究者が辞めているが、このうち16人が辞めた理由や状況が不明であるということ。今回のラドクリフ博士は誘拐されたことが明らかなので、初めて手がかりを科学者の行方不明についての手掛かりを得ることができる、ということでロス大佐はドルビー少佐の課にラドクリフ博士の奪還を指示する。ハリーは博士を護衛していて殺されたテイラーの代替要員として連れてこられたのだった。
ドルビー少佐はハリーの勤務評定を本人の前で読み上げるんだけど、それによれば
「反抗的、尊大、無秩序、犯罪的傾向あり。最後のひとつは役に立つかもしれない」
とハナからイヤミを言われて案内されて連れて行かれたのはアストラ社なる花火の会社。さらにこの奥にあるS.E.T.Aテレビ広告社なる会社の編集室でドルビー少佐の課員を紹介され、任務を伝えられる。ラドクリフ博士を奪還できなければこの課は閉鎖されると告げるドルビー。
「博士を売りに出せる力があるのはヨーロッパに二人いるが、そのうちの一人は二か月前に逮捕されている。残る一人はエリック・アシュリー・グランツビー(フランク・ガティフ)暗号名はアオカケス。去年の10月にウイーンで目撃されて以後は姿を見せていない。ロンドンの潜伏場所をあたって、接触したものは我々が買うと伝えろ」
というわけで、ハリーは親しくなったジョック(ゴードン・ジャクソン)からこの課のしきたりなど教えられたけど、
「ドルビーのやり方は肌に合わない」
と単独行動開始。まず彼が向かったのはスコットランドヤード。知り合いのパット・キートリー(スタンリー・メドウズ)に頼んでグランツビーの駐車違反歴などを洗い出し、車のナンバーも確認するとグランツビーが駐車違反で何度か違反キップ切られたサーロー街へ。
グランツビーの車を見つけて張り込んでると現れたのはグランツビーの参謀役のイワツバメ(オリバー・マクギーヴィ)パーキングメーターの料金を追加して去っていく彼を尾行してみると、入った場所は科学博物館の図書館。パーマーはそこであっさりとグランツビーを発見し接触するのでした。
「我々は列車で紛失した大切な研究用の機器を捜しています。手を貸してほしい。取引したい」
「6時以降に電話を」
とグランツビーはハリーに電話番号を書いたメモを渡します。それを持って出たハリー、すぐさまその番号を電話ボックスから交換に確認したところそれは停止されている番号。
そばを通り過ぎていくイワツバメとグランツビーをハリーは追いかけて呼び止めます。それを眺めているメガネの男が一人いました。彼は図書館の中でもグランツビーを見張っていた男。イワツバメとハリーは乱闘したあげく、グランツビーともども逃げられてしまいます。

オフィスに戻るとドルビーから課員は報告を求められますが、誰も収穫なし。そんな中ハリーは「接触しました」と報告。使っていない電話番号を渡され尾行をまかれた旨伝えますが、
「報告書を出したらまた創作に戻れ」とつれないドルビー少佐。
ジョックは「彼はきみの働きを喜んでる」と彼をほめますが
「妙な喜びかただな」とハリーは不満げ。

ハリーは買い物をして帰宅。すると点いていないはずの電燈が点いている。ドアを開けた形跡もある。春風亭昇太のようにハリーは独り者なんだもの。
銃を構えて中に入ってみると、そこにいたのは女性課員のジーン・コートニー(スー・ロイド)彼女が言うには
「ドルビーは新人を調べるの」
部屋の中をあらためられたハリーは、
「じゃあウィスキーの場所は?」
「判るわ」
「二つ頼む」
料理を始めるハリーはコートニーと身の上話など始めます。
コートニーの夫も情報機関で働いていたが東京で殺され、彼女の今の仕事は軍が世話したものでした。
ハリーも営倉から拾われてきた身の上であることを話します。
ベルリンにいたころにいろいろやらかしていたと語るハリー。
二人分の食事を作ろうとしてコートニーを一緒に食べようと誘いますが
「食欲がないの」と断られてしまいます。

あくる日オフィスでジョックから報告書の書き方など教えられていると、キートリーから電話でイワツバメが逮捕されたと教えられます、急いでスコットランドヤードに行ってみると、イワツバメは殺されていました。ハリーの名前を騙った男が先回りして彼を殺害していたらしい。
イワツバメの逮捕記録を見ると、容疑はスーツケースの不法所持。そのスーツケースは偽のハリーが持って行ったそうで、中身は電子機器だったと教えられます。逮捕された場所はサンダーソンの廃工場。
そこにラドクリフがいると踏んだハリーはスコットランドヤードの保安部を動員して廃工場に突入。しかし、中はもぬけのカラ。天井から下がった十字に組んだ鉄製の梁があるだけでした。ドルビーからは
「持ってもいないCC1権限を二度と使うな」
と叱責されてしまいます。
皆が撤収する中、ハリーがあたりを調べてみるとまだあたたかいストーブの中から燃やそうとして燃え残った録音テープを見つけます。そこには「IPCRESS(イプクレス)」との文字が。それを再生してみると奇妙な電子ノイズが聞こえるのだが、それが何なのかは判らないまま。

帰宅途中、ハリーがスーパーで買い物をしているとロス大佐に出くわします。買い物でたまたま一緒になった訳ではなくて、ロス大佐はドルビー少佐に内緒で捜査資料をマイクロフィルムに写して渡すようにハリーに命じます。断れば君は営倉に戻ることになる、と告げロス大佐は去っていきます。
帰ればコートニーと一緒にまた料理してるわけだけど、彼女はハリーを監視しているらしい。でも誰の命令なのかは彼女ははっきりとは教えてくれない。
本当は休みの土曜日に、ハリーはドルビーに近衛歩兵第4連隊のコンサートに連れて行かれます。グランツビーのメモはこのコンサートのチラシだったのでした。行ってみると、そこにグランツビーが現れドルビーは彼に取引を持ちかけます。
「研究用の機器に興味がある」
「陽子・陽子拡散の機器に?」
「君はその独占権を持っている」
グランツビーはその独占権を売ってもいい、と告げ25,000ポンドで商談が成立。しかしその場にもあのグランツビーを見張るメガネの男がいたのでした。

秘密の交換取引は無事に終わったかと思いきや銃撃戦が発生。ハリーは相手を撃ち、倒すのだがそこで死んでいたのはグランツビーを見張っていたあのメガネの男。実はCIAのエージェント。CIAはグランツビーを監視していたのでした。ハリーはラドクリフ博士の護衛を命じられ、彼に付き添い外出。それをまた別のCIA要員が監視しています。ラドクリフ博士は高エネルギーシンポジウムで講演をすることになっていて、ハリーが会場に連れて行くのですが博士は肝心の研究に関する記憶をすべてなくしていたため講演を始めた途端に絶句してしまいます。そしてCIAは今は仲間を殺したハリーを監視していることが判明します。

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ハリーはグランツビーに返金交渉のために会っていたけど、交渉になりません。むしろグランツビーとの関係をCIAに疑われる状況。そんななかジョックはあることに気づきます。
謎の単語イプクレスはInduction of Psychoneuroses by Condition Reflex under Stress を短くしていたものでないかと。ジョックは「博士に会って実験してみる」とハリーの車を借りて博士のもとへ向かうが、その途上何者かに射殺されてしまいます。
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「ジョックは自分と間違えて殺された」と考えたハリーは、ひとまずコートニーの家に隠れることにして一度自宅に戻りますがそこには彼を監視していたCIA要員が死んでいました。あわててオフィスに戻るとジョックから借りた本をはじめとする捜査資料を引き出しに鍵をかけてしまっておいたのに開けられていて中身はからっぽ。ハリーはドルビーに電話し「話したいことがある」と直接会うことにします。
現れたドルビーに、ハリーはCIA捜査員の死体が自宅にあったこと、捜査資料が盗まれたこと、そしてその犯人はおそらくロス大佐だと伝えます。イプクレスの謎が解けそうだったタイミングで自分を罠にかけようとしている。そしてロスは資料を見たがっていた。
ドルビーはハリーに姿を隠すよう指示します。死体もなんとかすると言い、夕食の約束の場所に向かい去っていきました。
ロンドンからしばらく離れるためにコートニーに見送られて出かけていくハリーですが、ハリーが出て行ってすぐコートニーはロス大佐に電話しています。ドルビーはそのころロス大佐に会ってハリーから聞いた話を伝えていました。ロス大佐はグランツビーを捕えるよう指示します。夜、大陸横断列車に乗ってロンドンを離れたハリーは車中で何者かに捕えられてしまいました。

ハリーが目を覚ますと、そこはいずこともわからない狭い牢屋の中。古い石造りの建物らしい。壁には今までそこに囚われていた人々の言葉が刻まれている様子。ハリーはベッドの下から曲がった古釘を見つけ、これで壁に何日経過したかを刻んでいく。出された食事もとらず数日ほぼ寝たまま過ごしていたハリーのもとに、彼のことを診察しに来た医者と共にグランツビーが現れます。
「なぜ誰も話さないんだ」とのハリーの問いに
「ここはアルバニアだからな」とはグランツビー。彼の母国だとのこと。
「俺は飢えや寒さにも耐えられる」と強弁するハリー。資料を見たと続けると
「だから連れてきた」と彼がここにいる理由を教えるグランツビー。
「二日、様子を見てから施術だ」と部下に指示を出します。そしてハリーが目を覚ましてから一週間経過。
ハリーはすっかり衰弱状態。医者のもとに連れてこられて、イスに縛られてまた別の部屋に連れて行かれます。
連れてかれた広い場所には、あの廃工場で見た十字型の鉄製の梁がありました。それには灰色の半透過スクリーンで四方を囲んだ台が吊るされていて、ハリーはその中に入れられ台を吊るして部屋を真っ暗にしてから「施術」が始まります。
ハリーを取り囲む不思議な映像と共に、あの廃工場から回収したテープから聞こえた変な音が大音量で響く状況。体が衰弱しているハリーにはとても神経的に耐えがたいけど、イスに縛られているから耳をふさぐこともできません。静かになるとグランツビーが語りかけます。
「リラックスだ。私の声を聞け。私の声だけを聞け。君はイプクレスの音を忘れる。君はイプクレスの捜査資料(ファイル)を忘れる。自分の名前も忘れる」
「ハリー・パーマー、俺の名はハリー・パーマーだ」
「君に名前はない」
「俺の名前はハリー・パーマーだ!」
施術とは、映像と音とで感覚を以上にしたうえでの催眠術みたいなものらしい。
一生懸命抗うハリー、彼が縛られた手を動かしすぎてけがをしていて、その痛みが施術を妨げているとみたグランツビーは一度施術を中止し、けがをしないように対策をしたうえでハリーの寝入りばなに無理やり連行して施術をして強ストレス状況での施術を何日か続けるのでした。
すっかり衰弱度が進みもうあかん状態のハリー、かれこれ5日ほど連続で施術されていますがまだ何とか意識はぎりぎり保っている。でも今回の施術では握りしめていた古釘も手から落ち、指示通りに目をつぶる。
「君はイプクレスの音も捜査資料も忘れる。自分の名前も。ある声が聞こえてくる。君は必ずその声に従うんだ」
施術がうまくいっていると見たグランツビーは別の声で呼びかけます。
「君は国を裏切りここにいる。同盟国の捜査員を殺した。イプクレスの捜査資料を盗み英国の敵に売った裏切り者だ。復唱するんだ。この声が「聞きなさい」と言ったら必ず従う
復唱するハリー。施術はうまくいってしまったのか?指示通りに反応するハリーを見て、グランツビーは満足します。

しかし独房に戻されたハリー、実は施術は効いていませんでした。寝付いたところを連れにきた守衛たちを殴り倒し、拳銃を奪って脱走に成功します。実は倉庫だった建物の外に出てみると、そこには見慣れたロンドンの光景がありました。夕方なんだか夜なんだかよくわからない時間帯だったけど、彼は電話ボックスに飛び込みドルビー少佐に電話をかけます。
「どこにいる?」とドルビー。その隣には、なんとグランツビーがいました。
「試してみろ」とグランツビーに促され、ドルビーはハリーに語りかけます。
聞きなさい。ロス大佐に電話して倉庫に呼び出すんだ。電話を切ったら私の言ったことは忘れろ」

倉庫にやってきたドルビー少佐をハリーが待ち構えていました。
話したら殺す、とハリーはドルビーを銃で脅します。ドルビーを壁際に立たせたところにロス大佐が登場。このロス大佐も銃で脅し、ハリーはドルビーの隣の壁際に立たせます。
「君に何があった?」ロス大佐がたずねると
「どちらかがそれを知ってる」とハリー。
はたして、本当の二重スパイは誰なのか?コートニーを使ってハリーを監視していたロスなのか?
ドルビーがハリーに語りかける。
「私の声を聞け。ロスを撃て。裏切者を殺せ」
わなわなと銃口をロスにむけるハリー、しかしそこで古釘でキズつけた右手をそこにあった映写機に叩き付け、痛みで意識を保ちます。その言葉を知っている人間をこれで思い出すハリー。
隠していた銃をとりだそうとしたドルビーをハリーは撃ち、倒します。

「君の反抗心を頼りにしてたよ」とねぎらうロス大佐に
「おれのことをおとりにしていただろう。命と精神を犠牲にするところだった」とハリー。
「それも仕事のうちだ」
ロス大佐はハンカチを出し、ハリーの血だらけの右手を拭いてやるのでした。


007シリーズを支えたスタッフが制作陣を固めているんだが、それっぽい雰囲気はぜんぜん感じられない。
ハデな悪の組織も、秘密兵器も、水着のとても似合いそうな美女も高級リゾートも出てこない。冒頭の張り込みはアンパンと牛乳が似合いそうな雰囲気だし、ジョン・バリーの音楽はスローテンポの地味な楽曲だし、ケン・アダムによる美術は007シリーズよりもむしろ組織にいる個人の矮小さを強調するような感覚ではないかと思った。ドルビーの部屋はムダに広いし、ハリーたちのオフィスもムダに天井が高くてドアがでかい。「未知への飛行」のスタジオセットと何か相通じるものが個人的には感じられた。とはいってもセットなのか、ロケなのかはわからないけど。そのかわり、ハリーの自宅とか買物するシーンなんかは生活感がたっぷり。ジェームズ・ボンドとは違ってハリー・パーマーは自分で買い物をして自分で料理をして、そんなに高い服も着ていない。高級品も身に着けているわけでもない、庶民的な主人公。ハードボイルド探偵ものの主人公がマーロウみたいな現代の騎士物語からアル中だったり人生で失敗していたりというどこか問題のあるキャラが主人公になっていった流れと重なって見える。チームとしての行動が苦手なハリー・パーマーは見事にハードボイルドな人です。デイトンの原作自体が冒険譚ではないしな。むしろ007シリーズをネタにしてわかりづらい皮肉やら練りこんだものだってのに、それを007シリーズのスタッフが映像化しているというネタにネタを重ねた作品の成り立ち。
でも、シドニー・J・フューリーによる芸のない硬質な演出に、オットー・ヘラーによる画のつくり方(何かの中からのぞいていたり、陰影の強い画調、赤色を生かしたセンス)が相まってなかなかの佳作に仕上がっていると思います。
横着な労働者階級のサラリーマンスパイの主人公をマイケル・ケインが飄々と演じていて好評だったそうで、この後に2作品を制作するシリーズ展開を果たすうえ、30年近くたってテレビシリーズが2作品制作されている。外部では、「オースティンパワーズ」の主人公はハリー・パーマーのギャグだし、シリーズ3作目では父親役でマイケル・ケインがそのまんま登場して楽しそうに演じている。「キングスマン」でもこれらからインスパイアされていると思われる部分もあるし(メインキャラクターの造形とか)キングスマンのリーダーのアーサー役でマイケル・ケインも出演している。思いのほか敷居の低い人らしい。
マイケル・ケインはショーン・コネリー以上のスパイ役者になってしまったなぁ。
今回は特にオチがないなぁ、と思ってマイケル・ケイン以外のキャストの方々になんか面白い話はないかと思ったらロス大佐役のガイ・ドールマンは「プリズナー№6」で№2をやってた方だったのね。コートニー役のスー・ロイドは「アベンジャーズ」「セイント」にも出てるし、一番驚いたのがジャック・ドゥミのカルト作「ベルサイユのばら」でポリニャック伯夫人を演じてるでないの。
みなさん頑張っていました


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