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March 20, 2017

驟雨

成瀬巳喜男の作品って、実はあまり見ていない
こないだ「乱れ雲」見たくらいだもんな

さっぱり語ることができないまま今まで過ごしてきました。

で、たまたまご縁があってお話をする機会があった、とある有名な映画ライターの方に成瀬の作品でおススメされたのがこの「驟雨」

ちょうど原節子が亡くなったころで、原節子の特集などあった時期にBSで放映されたのを録画してあったので、おススメに従って何とかして見ようと思いつつ時間が経ってしまい…

ついこないだ、やっと見ることができた。

とても軽やかな、テンポのいいい編集に驚きました。

驟雨(1956年)東宝
監督:成瀬巳喜男

並木亮太郎(佐野周二)と妻の文子(原節子)は結婚して四年。住まいの最寄駅は小田急線の梅ヶ丘駅。子供はいない。この二人で結婚して四年というのはなんか違うような気がするが。
せっかくの天気のいい日曜日だというのに、亮太郎と文子はどこにも出かけるでもなく家にいた。
文子はせっかくの日曜日なのにどこにも連れて行ってもらえないことに不満がある。あまりお金に余裕もない。そんな文子に対して胃が弱いくせして亮太郎は屁理屈こねてやりこめて、ぷいと亮太郎は出かけてしまう。
家を出た亮太郎が見たのは、隣の家に越してきた今里念吉(小林桂樹)と雛子(根岸明美)の夫婦。引っ越し作業中の、内向的な文子とは違ってはつらつとして元気のいい雛子の姿についつい目線がいってしまう。
根岸明美スタイル良いなぁ。
文子が亮太郎に、出かけるなら、と頼んだハガキは玄関に忘れられていた。駅前に買い物に出てみると、やっぱいろいろ欲しいものはある。電器屋をのぞくとトースターとかミキサーとか、魅力的だけどお金のことが気になってひやかすだけでおしまい。ちなみに電器屋は佐田豊
念吉はそのさなかちらっと見た文子が気になっていたみたいで、現れたあや子(香川京子)に文子の所在を聞かれて「近所に買物でしょう」と買物かごを下げて出かけたと答える。これで雛子にちょっとイヤミ言われる。

文子が帰ると、新婚旅行に行っているはずの姪のあや子が待っているではないの。
ちょくちょく来るので面倒見てあげてるノラ犬も待っていた。
いきなり泣き出したりするので、聞けば新婚旅行での夫の行儀の悪い振る舞いに我慢ができなかったので帰ってきたとのこと。
そこに念吉は文子に引っ越しのあいさつをしに訪れ、そばの無料券を置いて行った。
行儀の悪いところを具体的にあや子に聞いてみると、列車に乗ったらいきなりグースカ寝てたり宿の中居さんにコナかけたりしてるとか、けっこうくだらない理由が続く。
おなかがすいてるだろうから、と文子はあや子にもらったばかりのそば券を使って出前をとるのでした。
文子は「夫婦なんてそんなもの。もっとひどいこともあるんだし、そんなことであなたを愛していないということにはならないんじゃないの?」と納得させようとするんだけど、あや子は「古い人と新しい人とは一緒にしないで。愛されているかどうは重要じゃない。一番は自分が愛されて幸福かどうかということだわ」
この答えにやや目が点になった文子。
そこに亮太郎が帰ってくる。
文子は腹が減ったという亮太郎にまたそばの出前をとることにします。
で、すぐ話が進むかというと、ご近所の黒林夫人(中北千枝子)が夫の靴をおたくの犬が持って行ってしまったので探してほしいと長々と文句を言いに来る。その相手をするのは結局は文子ひとり。
あなたも靴を捜してほしいという文子に亮太郎は、たまの日曜日に俺が靴を捜すのか?と偉そうに取り合わない。
改めて文子が、あや子に一番イヤだと思ったことを聞いてみると、あや子が言うには、一番我慢ならなかったのが、夫がたまたま一緒になった自分の知らない友人と一緒に飲み始めてしまい、騒ぎ出したのでひとこと注意をしたら二人で飲みに出かけてしまった。朝まで帰りを待っていたのにそんな自分を見てにやにや笑っていたのだそうな。もう東京に帰りたいと言ったら、付き合いというものがあるんだよという答え。「あなたは私に恥ずかしいとは思わないの?」と聞いたら自分は何も後ろ暗いことはしていない、変に思うのは君の勝手だと答えられた、というお話。
そのあとは口もきかずに東京に戻り二人は別行動だという。
亮太郎はあや子の夫の立場に立って彼の代わりに理屈っぽく申し開きをしてあげる訳だが、ちょっと立場は苦しい。文子と亮太郎が日々の互いの言動についてあれやこれや言うようになり、文子があや子の夫の話として亮太郎のふるまいについて文句を言うと(なんでも興味のない顔をするとか不精だとか)それを聞いてあや子はちょっと困ってしまう。この間に亮太郎は着替えて隣の裏庭に目をやると雛子が体操しているのが見える。雛子の姿についつい見入ってしまう亮太郎。
「相談するべきではなかったのよ。でもいろいろ参考になりました」と話のオチをつけようとするあや子でありました。そこでにわかに雨が降り出して、念吉に言われてあわてて洗濯物を取り込むやらどたばたとする文子。
本編で驟雨が見られるのは実はここんとこだけですな。

翌朝、亮太郎は念吉と一緒に歯をみかぎながら雑談
念吉のヨメさん雛子の若さをうらやむ亮太郎に対して念吉は文子のつつましさをうらやむのですが、このくだりでそれぞれの男たちがもつ感情がよくわかります。
文子は雛子と一緒に買い物に出かけます。その途中に雨山夫人(東郷晴子)と行き会いあいさつなどするんだが、雨山夫人はかなり髪が白くなってるんだけどその理由など雛子に教えます。その傍らでは幼稚園の遠足を園長(長岡輝子)がにぎやかに引率してる。
黒林夫人、片倉夫人(出雲八重子)、大串夏子(水の也清美)にその後行き会い、雨山夫人についていろいろくさす会話を山の手言葉で皆さん繰り広げるのがまた奇妙で面白い。そうこうしてるうちに亮太郎が帰ってくるのに出くわしますが、帰る道すがら亮太郎は雛子を映画に行こうと誘います。当然、双方夫婦でグループデートというつもりなわけだがその約束の日、文子はやはり行きたくないと不参加。お隣の念吉も頭が痛いと言い出して不参加なので映画には雛子と亮太郎の二人で出かけることになりました。
文子は一人で買い物に出かけるのですが、大村千吉演ずる下駄の露店のたたき売りの口上に聞き入って人の輪に入っていたら財布をスられてしまいます。やはり大村千吉の口上などに聞き入ってはいけない。
翌朝、亮太郎は上機嫌で前夜に見た夢など文子に語ります。そこで文子は財布をすられたことを亮太郎に伝えます。そのまま不機嫌な感じで亮太郎は出勤しようとしたところで念吉と出くわしますが、雛子が昨日お世話になったと礼を述べるのがあまり面白くない表情。園長先生はホウキ持って犬を追っかけてます。で、亮太郎を見て園長と雨山夫人があの犬はあそこのだとひそひそ話。チャボ食われたとかいろいろと迷惑してるとひそひそ噺。
亮太郎が出社すると部長(恩田清二郎)が昼休み前に集まるように号令。同僚の川上(加東大介)はどうせろくな事じゃないと言いますが、ほんとに部長の用件はろくなもんじゃなかった。提携先から営業部に人員が送り込まれてくるので4名の余剰の人員が生じるので退職希望をつのることになったという話。その代り希望退職の場合は退職金は割増されるという言葉に営業部社員の心は揺れるのでした。亮太郎は深刻な表情で貧乏ゆすりです。
その夜社員寮で川上ほか同僚(堺左千夫堤康久)と麻雀打って亮太郎は勝ちますが、やはりそこでの話題は会社を辞めるかどうかということ。退職金の割り増しつきなら…と心が揺れるサラリーマンたち。結局徹マン。駅まで迎えに出てた文子は、亮太郎の帰りをあきらめて家に帰りますがその途中、焼いも屋から焼いもを購入。
翌日、文子は亮太郎に日本橋の白木屋に呼び出されます。その白木屋の屋上では亮太郎は旧友の三輪(伊豆肇)と会っていました。ここの会話で、亮太郎は外国文学の専攻だったことがわかるわけで彼が理屈っぽいキャラなのも理解できます。プロレタリアートの嘆きも語るしな。「今は食うことが仕事」と言い放つことから、この人にも夢とかあったんだなと判ります。ちなみに三輪の奥さんは塩沢登代路(塩沢とき)けっこうブルジョアな暮らしのようで、買い物は車に…なんて夫に伝えてます。
そんな三輪夫婦の姿を見て気後れする文子でしたが、彼らが去った後に亮太郎のもとへ行きます。
すられた財布の件をわびると亮太郎、「カネは麻雀で取り返した」と返します。それを聞いてべそをかく文子。二人は連れ立って甘味処に入ります。三輪のことを聞かれて亮太郎、あれは親の後を継いだだけで苦労してない、田舎に帰れば俺だって…などとひがみを語りだします。で、割り増しになった退職金を持って田舎に引っ込んで暮らそうと文子に提案するわけだけど、彼女はあまり乗り気でないみたい。
文子が家に帰ると雛子が待っていて、園長先生に押し付けられた、犬にやられた鶏を渡される。買い取ることになっているということで雛子は園長先生にぐちぐち語られたことでちょい頭にきたものだから、そこで言われた文子と亮太郎の悪口をばらしてしまう。
自分からはあいさつしないだとか、焼いも屋が来ればすぐ買いに走るとか、安いから豆腐ばかり買っているとかいう話を聞かされて文子もカチンときてしまいます。でも豆腐は買う。
いろんなところで胃の心配されている亮太郎、念吉に文子の仕事を紹介すると言われてちょっとおかんむり。彼が帰ると川上はじめ同僚たちが待っていた。川上は近所の小森(松尾文人)という男を連れてきています。川上は「名案がある」と語るのでした。
酒を買いに出た文子、園長に呼び止められご近所の親睦を図る平和会議に出席するよう誘われます。
川上の語る名案とは、四人の退職金を合わせて串かつ屋をやろうというもの。どんな感じの店にしようかという話になったとき、モダンで上品な感じにしたい、ということで川上は文子みたいなつつましい感じでやればいいんじゃないかと言い出します。忙しいかもしれないけど文子に一人で店のサービスをやってもらうのがいい!なんてことで亮太郎以外は意見が一致。聞いている文子は面白そうにしていますが亮太郎は面白くない。そこに念吉がご近所会議に誘います。
会場の幼稚園に着くと、議題になってるのは犬の話。そこから始まって近所のいろいろ不平不満が語られます。結局は大した中身にならなかったみたい。
終わって文子が家に戻ると川上たちは亮太郎が帰したあとでした。文子を皆が外に出て働くようアプローチするのがとにかく面白くない亮太郎。文子は自分はその話を面白いと思ってたのに亮太郎がひがんでいると言います。文子は前々から共稼ぎしたいと言っていたわけで、結局は口論になってしまいます。「話がある」と言う亮太郎に背を向けて涙している文子、立ったまま飯をかっこんでました。「だっておなかすいてて泣きそうだったんですもの」
亮太郎は「おれは一人で田舎に帰る。君は残ってバーでもなんでもやっていればいい」と文子に告げます。
でも文子は「それもいいわね。二言目には田舎田舎というけど弟さんがやってるんですよ。長男だからって勝手に転がり込んで食べるだけは何とかなるだろうなんてそんな甘い考えだめよ。十万円の加算金がそんなに欲しいの?あたしにだってそれくらいのお金何とかなるわ」
と売り言葉に買い言葉。こうなりゃ別居だってやむを得ないという亮太郎に「ひとが真面目に働こうと言ってるのに封建的だわ。田舎に行けばコメがぶら下がってると思ってるのね。胃袋がたるむと気持ちまでたるむものかしら」
などときつく言い返されてしまう亮太郎。なにか云いたそうな亮太郎=佐野周二の表情が印象的。

あくる朝、文子と亮太郎は会話もなく朝ごはん。そこにあや子から手紙が届き、夫とは何とかうまくやっているとの文面と夫とのツーショット写真が同封されていました。
亮太郎が縁側に向かい新聞を読んでると隣の家の庭で遊んでいた女の子たちの紙風船が亮太郎の家の庭に入り、「おじさん風船とって」と頼まれます。
拾ってぽんと叩いて返そうとすると、これがこれがなかなかうまくいかない。亮太郎がひとりで紙風船に苦戦してるといつのまにか文子も庭に出て紙風船をついて、結局は文子と亮太郎の二人で紙風船でもってラリー開始。
「もっと強く!」
「その調子!」
と亮太郎に気合をかける文子。そんな二人の姿を見て「昨夜ケンカしてたのに勝手なもんだ」と念吉&雛子は不思議そうに呟くのでした。


すごい軽やかなコメディといえばコメディ、でもとにかく不思議な感覚の物語ではあります。
まずツッコミ入れたくなるのが佐野周二と原節子の夫婦が結婚して4年目という点で、この二人どんだけ晩婚なんだと思うところはある。でも、まず見てて感心するのは映画的な画面のつくり。亮太郎は変に理屈っぽいキャラで、最初は「何だこいつ」と見てて思うんだけどこの人の人間的なものが物語の進行に合わせてどんどん判るつくりになっている。何かあると貧乏ゆすりするんだが、その時にちょっとくたびれた靴が画面に示されるというカットにもこの人の生活とか性格とかが表れてて、ホントに映画的な表現が多いなぁ。ムダな説明的なセリフとかはなくて、画をみれば判るようなまとめ方。ほかにもいっぱい細かいニュアンスを示す画面がいっぱいあるんだけど、実際にこれは作品を見れば理解できるだろうなぁ。こうやって文字にするのが大変なのよ。文子のことを自分で何とかしてやりたいという気持ちもうまく伝わらない、そんなちょっとかわいいキャラの亮太郎もそんな表現の積み重ねで示されてる。
奥様同士の会話の山の手言葉の連発とか、あや子が並木家に現れて文句を述べたらこれが文子の文句にすり替わってるような流れとか、買わされた鶏を鍋にして食べる様子にご近所の平和会議のくだりは本当に喜劇的。個人的には、文子=原節子が財布をすられてしまうきっかけになった露天商が大村千吉というところに妙に納得がいってしまい笑いましたが。
性的なものが露骨に表現されているわけではないけど、亮太郎が隣家の雛子をにこやかに眺める様子とか、逆に念吉が文子に見入ってしまう様子とか、ちょっと含みのある描写が面白い。
含みがあると言えば、なんでか尺をとっている会話もある。亮太郎と念吉の歯を磨きながらの会話とか、亮太郎が昨晩見た夢を語る、その内容とか。作品の流れの中でなぜか軽く流されるわけでなく「ある」わけで,念吉なり亮太郎のキャラをソフトに示す材料になってる気がするな。他にも何かをつなげるものになってるような感じがする。歯磨きのくだりは、それぞれのヨメさんのキャラを示す手掛かりになってはいるわけですが。
もともとは岸田國士の戯曲を何作か組み合わせて映像化したものだそうだけど、もとが戯曲だとあまり映画にするのに手を入れないような気がするがこれはそうでもないだろうな。
これ見てて、素直に原節子ってきれいだなぁと思ったのが、最後の方で立ったまま猫まんまみたいなのかっ込んでるカット。やっぱ昔の女優さんはきれいです。
小津ならこんな感じの映画を撮ることができただろうかなぁ。成瀬の実験精神をしっかり発揮した作品になってると思います。

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