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June 30, 2010

北上川悲歌

たまたま本屋で「新東宝秘話 泉田洋志の世界」という本を見つけて、ついつい熱心に立ち読みしてしまった。
泉田洋志さんは新東宝でもっぱら活躍した俳優で、当時はスタントマンとは言われなかったけどアクションシーンの代役やったり擬闘の監修担当だったりしながら、もっぱら敵役を演じていた人でした。この本、読んでみる価値は大変高いぞ。大蔵貢に関する裏話がちょろちょろ書かれててこの辺だけでも面白いけど、なつかしの大スターにまつわる小ネタがいっぱい。「トラ・トラ・トラ!」にも出演してたとはびっくり。
どっかで聞いたような名前だと思ってたら、中川信夫監督の「地獄」でひき逃げされるチンピラ志賀恭一の役だったひとなのね。
彼が活躍した新東宝は1961年に倒産したのだが、この本の中で紹介されていた新東宝最後の製作作品がこの「北上川悲歌」。
(「悲歌」は「エレジー」と読む)大蔵貢は前年の1960年末で社長を解任されたことからいわゆる「エログロ」路線からの脱却をはかろうとしていたそのさなかに作られた作品だった訳なので、とてもまじめに作られているものでした。
企画自体はこの年ヒットした「北上夜曲」を題材にしたもので、大映・日活との三社による競作だった。
一生懸命に作ったということはよくわかりました。初期の新東宝は文芸作品を制作してて、これからまたまじめな作品を送り出そうとみんな意気に感じてたんだろうになぁ。

北上川悲歌(エレジー)1961年新東宝
監督 曲谷守平
原作 松浦健郎

作曲家の山口喜八(加藤嘉)が、列車の中で自分の曲の楽譜の入ったカバンを盗まれてしまう。たまたまその場に居合わせた男、沢健次(田浦正巳)がそのカバンを盗んだチンピラを見つけ出し、山口の元に届けたので山口は「お礼がしたい」と云うのだが、健次は「僕のことはほっといてください」と関わりをあえて避けようとする。
健次は故郷の盛岡(だと思われる)から歌手になる夢を実現するべく東京に出てきたのだった。
「歌手になって帰ってくる」と恋人の鈴村道子(杉田弘子)と約束し、彼女を盛岡(たぶん)に残して出てきたはいいが、彼が働くナイトクラブ「エトアール」は実はやくざな社長の風間(石黒達也)が経営する店。健次はこの店の用心棒で、たまに歌手の穴埋めに舞台に立つだけのやさぐれた暮らしを送っていたのでした。例として、酔っ払って暴れる歌手の矢月(これがなんとジェームス三木)をのして、代わりにステージに立ってます。でも、この店は小野満とスイングビーバースの演奏も聴けるぞ。
音楽がやりたかったのに道を外れてしまった健次にしてみれば、作曲家の山口先生はまぶしすぎるのね。
やはり音楽の道を志していた人間として、健次は普段はガラが悪いのに山口先生にはとても礼儀正しいのだ。
風間と敵対する梅田組の組長(秋月竜)を風間が銃撃、健次はその身代わりになることを命じられる。
梅田組の組長は重傷を負って入院。健次は風間の身代わりにしばしの間姿を隠すための金を風間から受け取るけど、「ほとぼりが冷めたら、もうこれでかたぎにならせてもらいますよ」と告げる。その頃、歌手を志してエトアールにやってきたのが修(浅見比呂志)。雇ってほしい一心の修は押しかけてきた梅田組の須藤(柳谷寛)に身を張って啖呵を切る。風間は風間で、「やったのは健次だ」と言ったもんだから健次は須藤たちに襲われ、喉を撃たれてしまった。

盛岡で健次の成功を祈る道子(開運橋の上なんだもん)は友人の明子(三原葉子 実は盛岡出身)と待ち合わせ。明子のおじが持ってきた縁談も断り、周りから何といわれようと道子は健次を待つのです。そしたら、仕事を辞めて水沢から盛岡に帰った道子のもとに健次がふらっと帰ってきた。
やくざな暮らしの末に、喉を撃たれたことで歌手になる夢をあきらめたことを告げる健次。母をなくし、弟も東京へ家出したため一人ぼっちの道子は健次にずっとここにいてほしいと懇願、健次もそのつもりでいたが家出した道子の弟が風間のもとで歌手として働いていると知り、彼は修を助けるため東京へとんぼ返り。修は道子の弟だったのです。

風間に気に入られたことで、修はすっかりチンピラ暮らし。健次は修を殴り倒してやくざになるより歌手になるように諭す。その理由はあえて言わないけど、姉ちゃんを喜ばせてやれ、という健次の説教を聞かない修。
健次は風間に直談判して、修を堅気にするために自分が風間の裏商売の手伝いをすることに。風間はずるっこして、健次が戻ってきたことを須藤たちに教えたので健次は取引の現場で彼らに襲われる。
何とかやり過ごした健次、あくる日に山口先生のもとを訪問、修を歌手として育ててほしいと依頼する。恩義に厚い山口先生はこれを快諾、修を住み込ませて妻の多鶴子(三宅邦子)と共に集中指導するのだった。んでも、修は耐え切れず山口家を脱け出しクラブで健次が修の恋人の伸子(藤乃高子)とピアノの音あわせをしている場に遭遇。アニキはオレの女に手ぇつけたっ!と誤解した修は健次をなじるが、健次は自分が道子の恋人だったことや、ピアノで弾いていた曲は自分が道子のために作曲したもので修に歌わせるために練習していたこと、そして風間の秘密を修に告げる。でもそれを盗み聞きしていた風間の子分がこれを風間に報告。
たまたま風間が伸子を手ごめにしようとしていたところに出くわした健次は、彼女を助け出し、ついにやってきた修のデビューお披露目に向かうのでした。
これを祝うため盛岡から道子が上京。修を山口先生に預けたのが健次だったと聞かされ、激しく驚く道子であった。早く健次に会いたい一心の道子、わざわざ風間の店まで来ちゃうんだもんな。一方、健次たちが自分の秘密を知っていると知った風間社長は健次の女である道子が店に来ていることを知り、これを利用しようとする。
お披露目会場で道子とすれ違いになったことを知った健次、後を追う須藤たちをなぜか木場のあたりでボコボコにして風間の店に戻る。遠回りだってば。
囚われた道子を救うべく、ついに健次は風間と対決する。って、現れるときに「北上夜曲」口笛で吹きながらってイカしてるぜぇ。
でも風間はずるいので、手下と格闘している健次を拳銃で撃つんだよな。手負いの健次はそれでも風間と格闘。二人で拳銃を取り合う中、暴発したタマは風間に命中し風間は絶命。道子を助け出したところに修と伸子も登場。一件落着してこれでまた、二人で曲を作っていけると明るく言う道子(すぐそばで風間さん倒れてますが)しかし、北上夜曲をピアノを弾きつつ健次は死んでいくのだった。

すぐ救急車呼べば何とかなりそうな気もしますが。

なんか、そこはかとないチープな感じがかえっていい味なんですが。
いかんせん田浦正巳が優男すぎて、あんまり凄みがないのが一番の敗因かもしれない。この映画の公開前年、新東宝は大蔵貢が社長を退任してエログロ路線から脱却するべく悪戦苦闘していたわけで、この作品もエロなしでしっかり定石を踏んだ娯楽映画になっている。でもまぁ、風間のいる社長室の小部屋に「パパァ、おべべ着させてぇ~」なんて舌足らずの下着姿の女がいたり風間が伸子ちゃんを手ごめにしようとしたりとか、ちょっとだけ名残があるような。でもやっぱり、まじめなんでワルくなりきれてないみたい。スイングビーバースのみならずチャーリー石黒と東京パンチョスの演奏も楽しめるし、菅原都々子の歌もいっぱい聴けるんで(好みはあるが)歌謡映画としてならまずまずなんだがなぁ。あ、歌謡映画として見ればいいのか。

うん、これなら許せるな。わざわざ盛岡近辺のロケもやってるし、「花くれないに」で盛岡ロケも経験していた杉田弘子をわざわざヒロインに据えてるし。でも、ヒロインとしては存在感がいまいち。個人的には柳谷寛が一番安定してて良かったような気がする。おふざけなしの芝居やってんのに出てくるたびに何か一発ギャグをかましてくれそうで期待してしまった。沢村いき雄的ないいポジションだった。あとは風間を演じた石黒達也がいかにも小ずるいキャラで、なんか愛すべき課長さん的。と思ったらこの人、東宝のサラリーマン喜劇にも出てんだ。ちなみに、柳谷寛と行動を共にしている梅田の子分が他に二人いてこのうちの一人が泉田洋志。なんだけど、冒頭の本のフィルモグラフィーにはこの作品はなかった…。
盛岡近辺のロケでは、小岩井農場とか開運橋、たぶん川越しに線路の見える杉土手のあたりなどが使われてて玉山の啄木歌碑も登場。水沢駅前も1シーンだけ使われていて、当時の県南バスの車両がカラーで見られるのはバスマニアには嬉しいかも。

なんにしても、地元の人間は北上川を「きたかみがわ」とは読むけど「キタガミガワ」とは言わないぞ。

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