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November 23, 2007

地獄

っていっても、私が生き地獄にいるわけではないですが。似たよなもんだけど

映画的な表現、と云うはやさしいけど実際にはものすごい多彩な表現があると思う。
定石ってものは確かにあるけれど、この定石をはずさないでいて革新的な表現をするなんてのは夢物語だ、と思うのは簡単。
でも、今回この「地獄」を見てそのバランスの妙味を感じることができたような気がするです。
これを見て中川信夫って、すごい監督だととにかく感服した。

地獄 1960年新東宝
監督・脚本 中川信夫

大学生の清水四郎(天知茂)は矢島教授(中村虎彦)の娘、幸子[ゆきこ]
三ツ矢歌子)との婚約にこぎつけた。その晩、四郎に親しく?つきまとう悪魔のような男、田村(沼田曜一)の運転する車に同乗し帰る途中、やくざの志賀恭一(泉田洋志)をひき逃げしてしまう。
「戻って助けよう!」と云う四郎に耳も貸さない田村。おかげで罪の意識にさいなまれることに。

一方、息子の恭一がひき逃げされるのを目撃した母のやす(津路清子)は復讐を決意し、恭一の情婦・洋子(小野彰子)とともに犯人を探す。
自首することを決意した四郎は幸子と一緒にタクシーに乗って警察に向かおうとするが、途中でタクシーが事故を起こし幸子は死んでしまう。
自暴自棄になった四郎はキャバレーで飲んだくれたあげく店の女と一夜をともにしてしまうのだが、なんちゅういい加減な奴だとは思うがそれはともかく
実はこの女は洋子。恭一をひいた車に四郎が乗っていたことを知った洋子はやすに報告。四郎を毒殺する計画を練る。
殺害目的で、また店に来てねェと四郎を誘うのだが四郎は来ない。
というのは、実家の父・剛造(林寛)が打った電報で母・イト(徳大寺君枝)の危篤を知らせてきたもんで、急いで帰郷していたのだった。
その四郎を出迎えるのが剛造の二号さん・絹子(山下明子)と死んだ幸子に瓜二つのサチ子(三ツ矢歌子 二役)剛造は「天上園」といういんちきくさい養老院を経営してて、サチ子はその天上園で地獄図を描いている画家、谷口円斉(大友純)の娘であった。
そこに出入りする悪徳刑事・針谷(新宮寺寛)はサチ子を嫁にくれと円斉に過去をほじくり脅しをかけるし、いいかげんな医者、草間(大谷友彦)は補助金をピンハネしている剛造の片棒をかついでいる。

へなちょこな四郎はこんな実家の環境にうんざりしてるんだけど、そこにまた田村がやってくる。
「どうしてるかと思ってね…矢島教授もこっちに来るようだよ」
「頼むからすぐ東京に帰ってくれ、俺から離れてくれ!」と懇願するも田村は聞く耳持たない。
結局イトは亡くなってしまったが、その場にやってくる矢島教授夫妻。
「お互いに再出発しよう」と四郎に語りかける。しかし夫人の芙美(宮田文子)は精神に異常をきたしていた。
通夜の席上、イトが死んだのを誤診だ、となじる田村。
「死なせたのは剛造だ!病気の女房のそばで妾ぐるいしてイトを殺した!」
とつっかかるのは円斉。サチ子にその場から連れて行かれる円斉だけど、その後を引き取って「ここにいる人間、みな人を殺している」と、皆の過去を暴露する田村。沼田曜一はすごい怪演。

天上園の創立十周年記念行事が盛大に挙行されるその日、洋子とやすも四郎のもとに来ていた。川で獲れた魚を剛造は買い取って、施設の入所者に食わしてやる、と笑うがこれは洋子とやすが川にまいた毒で死んだ魚。
洋子は四郎をつり橋の上に呼び出す。
「あたしはあなたにひき殺された志賀恭一の女だったのよ。わたしはあなたを殺しに来たのよ」
驚いた四郎は己の罪をわびる「僕が悪いんだ」
ところが、洋子は足を滑らせつり橋から転落し死んでしまう。
洋子の残した拳銃で自殺を図る四郎のもとに田村が現れる。
「俺は何でも知っているんだ」という田村に四郎は逆上。
橋の上でもみ合いになった挙句拳銃が暴発、田村も転落してしまう。
また人の死に絡んでしまった四郎は罪の意識にまたまた悩む。

天上園では入所者も剛造たちも大宴会。この宴会のくだりが交互につないであって、結構長いのがすごい意味ありげで不思議な感覚におそわれる。
ひとり物置小屋でへこんでいた四郎を絹子が誘惑しようと夜這いをかけてるところに剛造登場。
「いつまでもあったのオモチャになってこんな田舎にいられるか!」と絹子。
「ふたりとも殺してやる!」と激昂する剛造。
ところが痴話げんかのあげく絹子も物置の二階から転落死。

矢島教授夫妻も東京に帰るため、天上園をあとにする。
宴席に戻った四郎のところに酒を持って現れるのは、やす。
毒入りの酒をついで回り、自らもそれを飲む。四郎はそこで死んだはずの田村がいることに気づく。そこに駆け込んでくるサチ子、
「矢島教授夫妻が飛び込みを…」と四郎に告げるさなか、田村の銃で撃たれ倒れる。毒入りの酒で皆苦しむなか、四郎は田村の首を絞める。
天上園の入所者も毒を食った魚をおいしくいただいたためにみんな絶命。
円斉は自ら命を絶ち、四郎も「おまえを殺したるんや」と執念深くいうやすに首を絞められ、息絶える。
この画面、すごいまぬけなんだけど…。

こうして地獄に落ちた四郎は閻魔大王(嵐寛寿郎)の裁きにより八大地獄の責め苦を受けることになった。ここからはあの世の地獄がスタート。主人公のイメージする地獄の描写が若山玄蔵の?渋いナレーションとともにラストまで続く。

四郎は死んだ幸子とめぐり合う。
「赤ちゃんが泣いている、私とあなたの赤ちゃんが…」
四郎との間に身ごもっていた子どもがこの地獄をさまよっている。
蓮の葉に乗って流されていく自分の娘・春美を追って地獄を疾走する四郎は、さまざまな地獄の責苦を目の当たりにするのだ。
大変なのは絹子の山下明子で、かまゆでにされるわ首はちぎられるわでお疲れさんでした。
草間はのこぎり引きだし針谷は手を切り落とされ、剛造は皮剥ぎの刑に処せられる(この画が一番キモイ)し、みんな閻魔大王の獄卒に歯を砕かれたりする。血の池も針の山も出てくるし。
ここで衝撃の事実が語られる。実は四郎とサチ子は兄妹だったことが母イトの口から語られる。その事実を知った円斉は皆に己の不徳をわびる。
それを知りながらサチ子と四郎をこの地獄でさえみだらな関係にしようとした田村は、人間の良心をもてあそんだかどで体中を刻まれる。その罰に苦しみ四郎に助けを求めつつも、その顔が笑ってる田村。

四郎には春美を救い出すことが唯一の使命。娘を永遠に続く苦しみから救い出すことができるのか?
亡者たちの怨念うずまくこの地獄でその願いはかなうのか?

幸子とサチ子の魂が、その地獄から昇天していく美しい画でこの映画は締めくくられます。四郎は結局どうなったのか?答えは示されないまま。

見てすぐ気づくのが、この物語の下敷きになっているのが「ファウスト」だということ。
四郎がファウストで田村がメフィストフェレス、幸子がマルガレーテってことになるかな?天上園の時計が止まっている描写もファウストの言葉「時よ止まれ、汝は美しい」の延長かも。
ということになると天上園の酒宴はヴァルプルギスには…ならんような気がする。
こういう下敷きも考えるとこの映画の構成は結構多層的で、まず登場人物が死んでしまうまでが現在の地獄、死んでからがあの世の地獄という大きく分けて二つのパートに分かれる。で、その背景には罪と罰という人間の業に対しての中川信夫的な考察があるのでは。
うじうじした四郎ととことんニヒルな田村のキャラクターの対比がとにかく面白いし、見ていると実際はこの二人は同一人格ではないのかとも思うほど。
あと、幸子とサチ子の対比も興味深いしとにかく気になる小道具が「日傘
矢島の妻は日傘を夜でもさしてるし、最後のシーンで幸子もサチ子も日傘をさしている。これは何か意味があるのか?
画としても賽の河原の場面なんかはとても詩的で、70年代の空気があるけどこの作品は60年の作品だ。先走っているのだ。
大蔵貢が製作だけど、彼の目をくらますのにところどころにエロいカットが挟まっていたのね。大倉貢としては「地獄と極楽」をやりたかったみたいだが中川信夫はあくまでも自身の地獄観にこだわったんだろうなぁ。当然、大蔵的極楽ってのはエッチな酒池肉林の世界だったろうし、あえてそれにくみしなかった中川信夫はえらい。
結果、この映画は傑作といっていい作品になった。
映画の好きな人にぜひ見てほしい、と思うよ。

遺作になった「怪異談 生きてゐる小平次」も見てみたいがソフトになってない。
誰か出してくれ。

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