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July 08, 2007

憂国

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三島由紀夫が市ケ谷の自衛隊駐屯地、東部方面総監部に総監を人質に立てこもり、バルコニーから檄文をまいて自衛隊員に決起を促す演説をしたのちに割腹自殺を遂げたのが1970年の11月25日。

当時コドモだったオイラは何の騒動が起こっていたのか全く知らずに、田舎の街でのんびり幼稚園児しておりました。すごい事件だったという感覚は、何となく判ったけど。
だいたいこの現代で切腹して介錯されて自死を遂げるなんて、唖然としてしまう。
時代劇でもあるまいし
でもコドモはそんな程度の感覚はあっても、すぐに忘れてしまうのです。

時は流れて高校時代。自主映画を作るクラブに所属していたオイラはどうしてもキャストを借りる必要から演劇部に出入りするようになり、結局頼まれて演劇部の公演にも参加することとなった。
そのときの役が右翼の青年で、「『憂国』、読みましたか?」というセリフがあったのだけど、当の本人は読んでません。どんな小説なのかは知らないのだけど、文庫本の厚さから見て短いものだなと踏んでいた。でも、そういう小品だとさらに読む気合が入らない。
だいたい三島なんて読んでないし(ーー;)当時はチャンドラーばかり読んでた。

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で、さらに20年あまりの年月が経ち、新潮社から三島の決定版全集が発刊されるにあたり資料など調査していた過程で「憂国」のフィルムが発見された。
三島自身が製作・監督・脚本・主演した(そのくせクレジットには「演出」って担当している方が別におられました)三島由紀夫の渾身の映画である。
この人、結構出たがりさんだったしなぁ。役者としては自身が原作やってた「純白の夜」「不道徳教育講座」なんてのから、「からっ風野郎」「人斬り」への出演がかなりマニアック。
ボディビルやったりしてメディアの露出の多い人だったのは知ってたけど自身で映画の製作までやってたのは知らなかった。

全集の別刊扱いでこの「憂国」のDVDが収められることになり、東宝からも同時に発売になった。どちらも基本的に仕様は同じらしく、三島本人の筆による題字が記されたパッケージに特典DVDが本編と別に1枚、三島自身がこの映画の製作の始終を記した「製作意図および経過」という一文が収められた解説書、そして海外公開にあたり三島本人が製作したプレス向けの封筒入りメッセージの復刻版から成る。

で、これを買って見るにあたってワタシ初めて三島の「憂国」を読んだ。作者がとにかく思い入れのあった作品なんだそうで、製作意図の文によれば「もし私の作品を一つだけ読むのならこれを読んで欲しい」旨記されている。
物語は、二・二六事件を起こした友人たちを逆賊として討たねばならなくなった武山中尉が義と信の間に懊悩し切腹を決意、そしてそれに従う妻麗子の二人が死にゆく姿が描かれている。50枚くらいの短編。
実際読んでみて、三島ってとてもなめらかな描写をする人なんだなぁと感心したけど小説ってこれくらいの筆力がないと書けないのかとも痛感。おれにはできん。
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で、映像のほうはというとこの作品の描写をさらにシンプルにしており、かなりインパクトがある。
能の舞台を用いてこの小説の世界を表現しようという試みなんで、かなりアーティスティック。モノクロだし。
この辺の詳細は付録の製作意図に詳しいけど、もともとの彼の狙いは「日本人のエロースが政治的状況下でいかに最高の形をとるか、死に結びつくか」
を表現することで、映像化するにあたり経費の節減もあって能の形式をとり小道具もろくにないシンプルな世界を作ろうとしたそうな(制作費は三島個人の持ち出しだった)
キャストは武山中尉(三島由紀夫)と、その妻の麗子(鶴岡淑子)の二人のみ。
セリフは一切なく三島自筆の巻紙の字幕で状況説明するだけの、28分の短編。
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結論として、三島の狙いはかなり成功していると思う。白と黒の世界で、黒いのは血と内臓のみ、他はすべて白い世界で「至誠」という言葉に支配された空間での切腹という儀式をもって原始的な感覚に訴える、というのが演出プランだったそうな。製作日数はわずかに2日!
プロデューサーの藤井浩明はじめ大映のスタッフが参加していたけれど、それを明らかにする訳にいかずクレジットには一部のみ表示されている。(DVD化されるにあたりこれは全員表記された)いろいろと面白い話は特典DVDに収録されたスタッフの座談会で聞かれます。

これを見てて、やっぱ自主制作の映画またやりたくなったなぁ。

65年に製作され、66年にATG系で公開。70年に三島は自決する。
切腹に対して憧れを持ち、老いることを恐れまだ我が身が美しいうちにヒロイックに、自ら死を選ぶというこだわりの究極の到達点。この「憂国」はこの人の死に対しての憧憬をかなり正確に表現した映画になっていると思われる。自分の死に対しても美学を貫こうとしていたのは判るけど、実際には三島の介錯を森田必勝は2回失敗した。割腹していたとはいえ、さらに苦しい死に方をせざるを得なかったのね。このとき共に立てこもった古賀は居合の
経験者で、最終的に三島の介錯を行い森田のも一回で終わらせたらしい。
気持ちはともかく、頼むべき相手を三島は間違えていたことになっちゃった。
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はたして、美学というものを最後まで貫くのは正しいのか?
今のこの、自称美しい国をみてやはり憂国の念をみんな持っているんじゃないかとは思うけど美学まではもてないなぁ。

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Comments

おおお、憂国見られましたか。DVDが出るのは知ってたんですが。
友人のオヤジさんがリアルタイムで見たことあるらしく、
豚のお腹の毛を剃って切腹シーンを
撮影したらしい、という内容を聞いてかなりインパクトを受けたものです。

昔のスプラッター(この言葉、どうしてもO次郎を思い出す・・・)
の描写はいろいろ大変だったみたいですね。ところで、「アンダル
シアの犬」の目を切るカットは(書いているだけでも痛い)どー
やって撮影したんでしょうかね。あと「イレイザーヘッド」の
胎児とか。リンチカントクは絶対教えてくれないらしいです。
ナニで作っているんだ。 (^_^;)

Posted by: ガットラー総統 | July 27, 2007 at 02:15 PM

>ガットラー総統
バケラッタでなくてスプラッターといえばスプラッターですが、
おまけのDVDに収録されていたスタッフの座談会によれば、あの切腹シーンは三島の腹の上に豚の内臓を仕込んだ人工皮膚の腹を作って撮影したとのことでした。しかし、この豚の腸がとにかく臭かった!とはスタッフの弁でした。あと、確か「アンダルシアの犬」のあの目は人間のではないとの話も聞いたことあります。それでもあれはとにかく痛そうで…

Posted by: 最上屋 | July 28, 2007 at 05:47 PM

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