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October 09, 2005

未来世紀ブラジル

自分の場合、なぜなのか特に予備知識もないまま、「あ、これ面白そう」
と思って見に行った映画は、あまりハズレがない。
その昔、「バンデットQ」という映画の批評を新聞で見て、これのプロデューサー
がジョージ・ハリスンだってんで「どんな映画なんだろう?」と思って見に行った。
とてもよく出来たファンタジーで、オチもひねりがうまく効いてる、センスのいい
映画でしたが、その監督がテリー・ギリアムだった。

その後さらに時は流れオイラは大学生してた頃、「未来世紀ブラジル」が
公開された。見に行った友達は一様に「これは凄いぞ」と教えてくれたけれど、
結局劇場には見に行かずじまい。
後にビデオで見たけれど、確かに凄い映画だった。
物語は、まとめるのが面倒だぞ。
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舞台は、20世紀のどこかの国(冒頭にそう字幕が出るんだもん)政府が
ほとんど完全に国民を思想的にも管理している、統制国家。しかしそれゆえ
体制に反発する爆弾テロが起こるわけで、秘密警察がびしばし取り締まり。
主人公はその国の情報省記録局に勤務する、夢見がちな小心者サム・ラウリー
(ジョナサン・プライス)。昇進も栄達も望まない、平凡な男。
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情報剥奪省で、ある職員がハエをつぶしてそのハエがタイプライターにかんで
しまい、タトルを逮捕するはずが書類のタイプミスで平凡な靴職人の
バトルが処理される。上の階に住むトラック運転手のジル(キム・グライスト)は
抗議するが相手にはされない。カーツマン局長(イアン・ホルム)に後始末を
命じられたサムは、情報省の受付で夢に見た美女とそっくりのジルに出会う。
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夢の中の美女


サムの母親、アイダ(キャサリン・ヘルモンド 一瞬だけキム・グライスト二役)
は出世欲のない息子を裏から手を回して出世させようとする。
そんな中、サムのアパートのダクトが故障。セントラルサービスのみが合法にこの
修理を行えるけど、夜間はお断り。
そこへ非合法修理工タトル(ロバート・デニーロ)登場。ダクトを修理している中
来ないはずなのに来たセントラルサービスのスプール(ボブ・ホスキンス)は
サムに追い返され、捨て台詞と共に去る。修理を終え、闇に消えるタトル。
当局で追っていたのはこの男、ハリー・タトルだったのだ。
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バトルの家に出向いたサムは、ジルがそのすぐ上の階に住むことを知る。
ジルをさらに知るために情報剥奪局への昇進を承知するサム。さっそく
上司となるヘルプマン次官(ピーター・ヴォーン)に取り入る。
役所で旧友のジャック(マイケル・パリン=モンティパイソン一味の一人)に会った
サム。彼は拷問のプロ。この件のもみ消しのためジルの身柄の確保が必要だと
告げる。自分にまかせろとジルの元へ向かうサム。受付に居た彼女を連れ出し、
情報省の手から逃避行。だけど爆弾テロの混乱の中離れ離れになる二人。
何とか再会し愛し合うサムとジル。しかし、翌朝、情報局に逮捕される。
とうとう拷問を受けることになるサム。そこへ間一髪、タトルが仲間と共に
サムの救出に現れる。
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これまでのさまざまな出来事をみな、どこかへぶっ飛ばしながら、
やっとたどり着いたジルのトラックで田舎に逃げるサム…

それは幻影でしかなかった。
ジャックとヘルプマン次官がサムを見つめる。
「片付いたか」「ええ、片付きました」
壊れた人間となった、サムの姿。
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 えーい、とにかく、まとめるのが難儀な物語なのだ。
簡単にまとめると、管理社会にいる一人の男の悲劇になっちゃうけどひとつ
ひとつのエピソードがコミカルで、深刻になってない。記録局で仕事さぼって
みんなで映画見てたりするくだりとか、剥奪局に移動したサムの机の取り合い
とか、みんなおもしろおかしく描写している。
その分だけエンディングのカラッとした冷たい感覚が際立つのだな。
ここで描かれる世界の、不思議なレトロ感満点の小道具は最高。靴が帽子に
なっているファッションセンスも、見た当初はどえらい新鮮だった。
なんといっても、サムがタトルと脱出してからのラスト20分ほどの画面の
ドライブ感は何にもたとえられない。編集の妙です。
この映画、絶対に見て損はない、とオイラはいまだに思っている。
もともと、この映画の仮題は「1984年1/2」だそうで、オーウェルの有名な
「1984年」とフェリーニの「8 1/2」をかなり意識して構想が練られたものだと
いうふうに考えると、この映画の作品性は納得ができるかな、と思った。

テリー・ギリアムは、もともと有名にになったきっかけはあの「モンティ・パイソン」
に参加して切り貼りアニメこさえてたことだったから、てっきりイギリスの人だと
思ってたらミネソタの出身。でも、この人の不思議感覚はこのモンティ・パイソン
のおかげで磨かれたのではないかと思われる。不幸なのは、この変な男所帯
にいたせいか若い女優の使い方が上手じゃない、というとこか。
ここでのヒロイン、キム・グライストもわざわざ選んだ割には、そんなになぁ。
他のジル候補はジェイミー・リー・カーティス、レベッカ・デモーネイ、エレン・バーキン
、ロザンナ・アークエット、ケリー・マクギリス、ジョアンナ・パクラ、レア・ドーン・
チャン。それと、マドンナ…?ギリアムはバーキンが好みだったらしいけど。
このキム、現場でデニーロ並みの扱いを要求したとかで、かなり現場スタッフを
怒らせたらしい、と聞いている。ちなみにデニーロはジャックの役をやりたかった
らしいけど、説得されタトルの役に落ち着いたそうである。

この映画の公開に当たってのトラブルは有名。85年1月に試写の結果、北米
での配給権を持つユニバーサル首脳のウケが悪く親会社のMCA社長シド・
シャインバーグは短縮してハッピーエンドになる再編集を指示する。
このため北米公開が遅れ、業を煮やしてギリアムとミルチャン(この映画の
プロデューサー)は10月にヴァラエティ誌に広告を出す。(2月から各国では上映中)
この映画のいきさつが有名になり、ギリアムらはゲリラ的に試写を行う。
LA批評家協会会員向けに12月に試写をした結果、公開されてないのに最優秀
作品賞・脚本賞・監督賞の三冠をゲット。無視できなくなったユニバーサルは
ついにこの映画を一般公開した。この辺のいきさつはジャック・マシューズ「バトル・
オブ・ブラジル」に詳しく書かれている。邦訳はダゲレオ出版で、カバーが福山庸冶
だったのに驚いた。
個人的には、芝居の仕込みを手伝ってたらこの本を拾ったのをよく覚えている。
何度か読んで、一緒に拾った友達にあげたけど持ってりゃよかった。

クライテリオンのDVDにはこのときに作られたシャインバーグ版(別名、「愛はすべ
てに勝つ」版。94分)も収録されているそうで、見てみたいな、やっぱ。
次作の「バロン」もあっさり制作費を使い果たしたりしてトラブルとなり、前作
「ドンキホーテを殺した男」でも撮影6日目で製作中止という、トラブルの神。
だからって、たとえ雇われ監督でも「12モンキーズ」のギリアム節はすばらしい。
俳優の間で人気は高いようで、「彼の映画ならぜひ出演したい」と皆が言う。
男優はそりゃ、みんないい仕事してるもの。ジョナサン・プライスも適役だし、イアン
・ホルムが出てるのは「炎のランナー」知ってると嬉しいし、デニーロは相変わらず
ハズさないし、ボブ・ホスキンスも細かい役作りしてるのが解るし、とにかくみんな
楽しく演技してる、そんな感じがする。
おれもそりゃ、ギリアムの映画に出られるなら出たい。ギャラは足代だけでいい。
この人の映画は、そんな魅力があると思うのだ。…男には。
「12モンキーズ」見て、本当にそう思った。
最新作の「ブラザーズ・グリム」もぜひ見たいと思ってます。

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Comments

この映画、大好きなんですよ。

テリー・ギリアム。映画界きっての不思議男ですね。カゴメの中ではリンチとクローネンバーグと彼は同列です(笑)。
ということで、TBさせてくらさい。

Posted by: カゴメ | November 09, 2005 at 05:05 PM

TBありがとうございます。「ブラジル」、いいですよねー。
ギリアム先生は「捨てる神あれば拾う神あり」を地でいくすごい方だと思っております。
「ブラザーズ・グリム見に行きたいのに、行けるかどうかいまだわからない(^_^;)こんなんじゃ、ダメですね。
クローネンバーグ、新作「ヒストリー・オブ・バイオレンス」が公開待ちですね。楽しみです。

Posted by: 最上屋 | November 10, 2005 at 06:32 AM

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DVDで、出演:ジョナサン・プライス/ロバート・デ・ニーロ/キャサリン・ヘルモンド/イアン・ホルム/ボブ・ホスキンス/マイケル・ペリン/ピーター・ボーガン/キム・グライスト/チャールズ・マッケオン/脚本:テリー・ギリアム/トム・ストッパード/チャールズ・マッケオン/製作:アーノン・ミルチャン/監督:テリー・ギリアム/作品『未来世紀ブラジル』を観ました。 ●ストーリー 20世紀の情報管理が強化されたこの国では、絶対的な権力を情報省が握っており、これに反発する爆弾テロ事件が社会問題となってい..... [Read More]

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